料理王国2021年10月号の特集「日本料理の基本・だしを学ぶ」より、本誌でカバーできなかった内容を紹介する新連載。日本料理特有のだしについてご紹介します。
本誌内容はこちらから:
https://cuisine-kingdom.com/magazine-202110
日本人と昆布の関わりはたいへん長く深いものです。文献に初めて登場するのは1200 年ほど前のことですが、最初に煮炊きが始まった縄文時代(約1万5000 年前~ 2300 年前)から昆布はすでに使われていたといわれます。古来より昆布は細かく削って薬として珍重されたり、神様へ奉納されたりするなど貴重で神聖なものでした。現在のように、だしの素材として使われるようになったのは、中国から伝わった精進料理が発展を遂げた12世紀頃です。精進料理にとって海藻である昆布は使い勝手のよい食材であり、だしや煮物などさまざまな料理に用いられたほか、胡麻油で揚げた昆布も栄養価が高く好まれました。
その後、17世紀後半になると海運が発達し、昆布の収穫地である北端の蝦夷地(えぞち)(現在の北海道)から商業の中心である西の大坂まで昆布の長距離輸送が可能となりました。そこを往復して物資を売買する船は「北前船(きたまえぶね)」と呼ばれ、北陸地方の敦賀はその主要な寄港地としてにぎわいました。物資のなかでも昆布は重要な地位を占めており、敦賀で加工され、京都や大坂へと出荷されました。この「昆布ロード」の確立により昆布が安く出回るようになり、庶民のあいだにも広まっていったのです。
日本料理の特徴のひとつに、保存のきく乾物をさまざまに活かすというのがありますが、だしの素材である昆布はその代表格です。収穫した昆布を一定期間寝かせることで熟成させ、さらにもどして使うことでうま味を抽出する技法は日本ならではのものであり、日本料理の核となっています。
昆布には多くの種類がありますが、利尻昆布、羅臼昆布、日高昆布、真昆布が、現在流通しているなかでもっとも有名なものです。京都の料理店では利尻、大阪を中心とする関西地方では真昆布が多く出回り、東京では日高がなじみ深いなど地域や料理によって使われる昆布が異なります。「だしの味で料理が決まる」とされ、料理店のだしへのこだわりはとても強いものです。この本で紹介する料理では、とくに断わりがない場合は、利尻昆布でとっただしを用いています。
だしの素材以外でも、昆布を薄く削ったおぼろ昆布、酢でもどした昆布を重ねて熟成させ、表面を削ったとろろ昆布、醬油で炊き上げた佃煮昆布など多くの加工品があります。
次回は、昆布の収穫から出荷までをご紹介します。
photo: 山形秀一
日本料理アカデミー監修「日本料理大全」シリーズは経験や勘に頼るのではなく、なぜこの味が生まれるのか、どうしてこの調理法になるのか、といった根拠や科学的な理由などを学ぶことで、料理人が考え、取り入れ、オリジナルの料理を生み出す手助けとなることを目指す。
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