デンマークでのCOVID-19新規感染者数は落ち着いてきているものの、変異株の発生を受け、政府は少なくとも2月末までのロックダウン延長を決定。さらに、レネ・レゼピ氏もCOVID-19に感染・発症するなどの困難に見舞われたこの冬。世界中が初のウィズコロナの冬をようやく乗り越え、もうすぐ迎える春。レゼピ氏が考える、より明確になった世界の食のあり方とは。
2月中旬現在、デンマーク政府の方針は、2月の末までロックダウンとなっています。実は、デンマーク国内の陽性者は非常に少なく、全国で1日に約10〜15万人の検査数に対して約300〜400人しか陽性者がいない、つまり0.2〜0.3%の低い陽性率と言えると思います。それでもロックダウンを実施するのは、COVID‐19の変異株への対策を万全にしたいという意図があるのでしょう。個人的には、春まで、あるいは初夏までnomaの再開は難しいのではないかと考えています。再開したタイミングに合わせ、新しいメニューを提供するつもりです。
昨年12月からロックダウンに入りましたが、現在、全てのメンバーに対して通常時の90%の給料を支払っています。こんな時期だからこそ、チームの結束力を高め、モチベーションをあげることは大切です。そのために、nomaではいくつかのアクティベーショングループを作っています。ハイキンググループ、サウナをレンタルしたのでサウナグループ、読書クラブと様々です。精神衛生を保ち、自分たちを生産性が高い状態にしておこうと、皆で決意を固めていますし、現状のチームの状態にも満足しています。
自分自身の1日の過ごし方としては、朝起きたら、週に3回はジムでトレーニング、週に2回はストレッチ。また週に2回はサウナに入っています。海のそばにサウナを設置して、サウナと海の交代浴をするのですが、今は海水がキンキンに冷えていますから、とても爽快です。土曜日にはレストランのハイキンググループで長距離のハイキングをしますし、読書クラブもお気に入りです。それから、1日5〜6時間は厨房で創造的な新メニューの開発をしています。残りの時間は、家族との時間に充てています。
私自身、12月上旬にジムでCOVID‐19に感染して発症し、12月16日、43歳の誕生日は自宅隔離の状態で迎えました。7日間高熱が続き、14日間は家を出ることはできませんでしたが、15歳で料理人になって以来初めて、それだけ長い期間、家でゆっくり休むことができ、完全に回復しただけでなく、前より身体的にも強くなった気がしています。私はレストランで感染した訳ではありませんし、これまでも衛生管理に気を配ってきましたが、さらにしっかりと対策をしなければと感じます。時々「ここは病院ではないか」と錯覚しそうになるほどです。
そもそも、COVID‐19自体が料理を大きく変えたと思います。今は創造性をひとまず置いておき、いかにして質を保ち、生き残っていくかという時代です。ヨーロッパ、アメリカ、南米のレストランの友人達に話を聞いても「今は生き残るための努力をする時期だ」という声を聞きます。また「健康」と「サステナブル」が食の未来だということは間違いないでしょう。多皿のコースを提供するファインダイニングであっても、この二つの考えに適応していかなければならないと思います。なぜなら、未来の世代がそれを選ぶからです。
なかでも、私たちが実践しているのが、なるべく「環境再生型農業」に則った食材を使うことです。これは持続可能性を考えるだけでなく、さらにその先の、環境の再生や気候変動に対処する手段としての農業で、空気中の二酸化炭素を吸収しながら食料を生産したり、土壌を改善して自然環境の回復につなげるという考え方に基づいています。nomaのカジュアルライン「108」を閉店して作ったハンバーガー店「POPLバーガー」のパティには、デンマーク西部のワッデン海国立公園で放し飼いされたオーガニックの牛肉を使っています。森林を切り開いて牧草地を作るのではなく、国立公園に元々生えている草を食べ、ふんが肥料になる循環型の農業で生まれた牛肉です。通常の牛肉よりも高価ですが、環境に良いと考えて選んでいます。
今後の見通しに関しては、去年の3月、COVID‐19の問題が起き始めて数週間の段階から「2022年の夏まで、通常時のようなゲストの状態には戻らないだろう」と予想していました。今も、それが現実的な時間軸だと感じています。2022年になってCOVID‐19の問題が過去のものになっているということではなく、元の生活に戻るスタート地点に立つ、という意味合いです。その頃には、私たちは今よりももっと、旅する機会があると思います。
この困難な時代を乗り越える最上の、そして最も簡単な方法は皆がチームとして乗り切ることです。シンプルに、誰かが困っていたら助けること。それがこの逆境を正しい方向で乗り越えるための鍵となるでしょう。
12月末から休業していた「POPLバーガー」が1月21日から再始動。ナチュラルワインやオーガニックのジュースのみならず、バーガーとのペアリングを追求して生まれた瓶入りカクテル「ブラッディ· フランキー」(100クローネ、約1,715円)が人気を博す。自家製トマトジュースにレモンタイムや発酵ラボで乳酸発酵させたサクランボとプラムなどを漬け込み、さらに太陽の香りがするサフラン·コンブチャにウォッカを加えた「nomaらしさ」あふれるカクテルだ。このカクテルと合わせるのは、オーガニックの牛肉やnomaの発酵ラボから届く自家製の牛醤などを使ったハンバーガー(115クローネ、約1,972円)。「寒く暗いデンマークの冬でも、人が外に出たいと思えるような、シンプルにおいしいものを」(レゼピ氏)と、「誰もが気軽に楽しめるnoma」を体現する。
text 仲山今日子 photo Ditte Isager
本記事は雑誌料理王国2021年4月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2021年4月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。