失業から一転!つかんだラテンアメリカNO.1ペストリーシェフの座


2020年12月、オンラインで実施された「Latin America‘s Best50 Restaurants」の表彰式。史上初の無店舗のシェフがベスト・ペストリー・シェフに選ばれた。世界で猛威を振るうCOVID-19は、今回ナンバー1に輝いたメキシコのソフィア・コルティナ氏から職を奪った。しかし、逆境を逆手に取り、自宅で焼き上げた菓子が人気を呼び、今回の受賞につながった。

店舗がなくとも創造性は発揮できる

 「無店舗のシェフ」とはいえ、コルティナ氏の経歴は華やかだ。メキシコ出身で、ラテンアメリカのベストレストランで現在位のモダンメキシコ料理店Pujolで働いた後、フランスのピエール・エルメ氏の元でキャリアを重ね、2020年1月に、メキシコの4つ星ホテル、「ホテル・カルロータ」内のレストランのペストリーシェフとして凱旋帰国。その矢先にCOVID-19の影響で、レストランの仕事のみならず、コンサルティングの仕事も失い、わずか3ケ月で無職になってしまった。

 しかし、それをコルティナ氏は挫折とはとらえなかった。元々ホテルの仕事と並行し、立ち上げを考えていた菓子店を「店舗を持たなくても、創造性は発揮できる」と、ネット上で始めることを思いつく。7月に自宅で焼いた菓子をインスタグラム上で公開し、ワッツアップのメッセージで注文を受けてデリバリーするシステムを確立。すると、たちまち人気に火がつき、自宅の厨房では手狭になったため、COVID-19の影響で休業中の友人のレストランの厨房を借りて規模を拡大した。

 「食に関わる私たちは、人々の健康を守る責任がある」というコルティナ氏の菓子は、果物などの自然な甘みを生かし、精製した砂糖の代わりに地元産の蜂蜜や、甘い香りのヴァニラビーンズを使っていて低糖質でありながらもおいしい。例えば、一般的なコンフィチュールなら果物と同重量の砂糖を入れるが、4分の1量にして、季節の果物のフレッシュさを楽しめるようにしている。

イチジクのエクレア

 コルティナ氏の絵に描いたようなサクセスストーリーの裏にも、苦労はあった。「このビジネスが軌道に乗るまでの期間、ストレスと過労で体調を崩した時がありました。大切なのは、自分のための時間もとり、健康でいること。健康でなければ、人の役に立つことも、お客様に喜んでいただくこともできません。仕事に全てを捧げ、愛する人との時間が持てないのは本末転倒です。ただ、人生は短い。私たちは持っているものを分け合わなくてはならないと思います。もし何かを生み出すことで、人を幸せにする力を持っているなら、今それを使うべきではないでしょうか?」。

 夢だったという、自分の厨房と実店舗の開店も、近日中に実現予定だ。今回のコルティナ氏の無店舗でのベストペストリーシェフ受賞はウィズコロナ時代の新たな働き方の可能性を示すことになったと言えるだろう。

「パンケ・デ・マメー」は、最初に売り出したお菓子で、コルティナ氏の一番のお気に入りでもある。マメーは中央アメリカ原産のバナナのようなテクスチャーの果物で、この他にもエクレアなど、様々なお菓子に使われている。

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text 仲山今日子

本記事は雑誌料理王国2021年4月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2021年4月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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