地方スターシェフに聞いた!人を呼ぶために必要な条件#4


地方で『人を呼ぶレストラン』を作るために必要な条件をテーマに、「料理王国」が注目する地方の料理人50人にアンケートを行った(2016年9月上旬実施)。北海道から沖縄まで、地方スターシェフ50人の生の声を紹介する。

前回の記事はこちら

https://cuisine-kingdom.com/localstarchef-3

凡例
(1) お店がある地域の魅力をお教えください。
(2)(1)でお答えいただいた地域の魅力を、お料理やお店の空間でどのように表現されていらっしゃいますか? 具体的な例を交えてお答えください。
(3)地方で「人を呼ぶレストラン」をつくる上で、いま何がもっとも大切だと思われますか?

静岡県富士宮市 フランス料理

レストランビオス 松木一浩さん

(1)東京から2時間くらいの距離感。目の前に見える富士山。日本の里山の風景。富士山の伏流水、芝川の清流。朝霧高原の家畜類、自然と人の営みが一体化した昔ながらの里山。人的資源、都会から移住したアーティストも多い。

(2)つみたての山野草や朝霧高原の鶏、豚、牛、卵。芝川からのイワナ、ニジマス。食材以外では、間伐材を使ったバターナイフ、鹿の角と皮で作ったナプキンリングなど、食卓にテロワールのストーリーを感じさせるもの。もちろん野菜も。

(3) まずは人的資源(シェフやサービス)、そこにハードの部分。あとはコンセプトです。なぜ、わざわざ人はそこまで行くのか? そこまで行く価値をちゃんと提供できているか?

© © Yuta Fukitsuka
レストランビオス 松木一浩さん

レストランビオス
Restaurant Bio-s

静岡県富士宮市大鹿窪939-1
0544-67-0095

滋賀県大津市 日本料理

比良山荘 伊藤剛治さん

(1)比良山系の中にあり、山・川・琵琶湖の自然食材が豊富なこと。京・近江という文化的・歴史的にも奥が深い地域。

(2) 春は山菜、夏は鮎、秋は松茸、冬は熊と、野趣味豊かな食材を大胆かつ朴訥に出すことを心がけている。

(3) 自店のある地域、土地、文化、歴史そしてもちろん食材や料理を、客観的な目(お客様目線)でとらえること。

© 料理マスターズ倶楽部
比良山荘 伊藤剛治さん

比良山荘
HIRASANSO
滋賀県大津市葛川坊村町94
077-599-2058

京都府木津川市 イタリア料理

リストランテナカモト 仲本章宏さん

(1) 自然が豊かで農作物が豊富です。バランスよくいい農作物が取れます。地元の農家さんには、いつもその時その時採れる旬のものを届けて頂いています。春には山城の「白たけのこ」、夏には「木津川」沿いで昔から続く花火大会、地元山城『無花果』、秋には鹿背山の「富有柿」、冬には加茂、当尾の少量しか取れない「里芋」などが魅力です。小さな国宝の寺などもあるので、少しマニアックな観光地でもあります。大阪市内、京都市内からは1時間程度で来ていただける、小旅行気分を味わえる程よい距離です。

(2) 簡単なことですと、地元で取れる野菜などを積極的に使っています。「野菜の一皿」と表現し提供しているメニューでは、できる限り沢山の種類の野菜を華やかに盛り込んでいます。うちの人気のひと皿です。ランチで使う、メインの豚の郷ポークもレストランから20分程の距離の畜産農家さんのものです。これらをよりシンプルに自分らしく表現しています。店の空間は、逆に地元感が出ない、非日常のスタイリッシュな雰囲気を心がけています。木津という田舎にあるにも関わらず、一歩足を踏み入れたらまったくの別世界へお客様をお連れする、そんなギャップを意識しています。友人の鉄作家によるオブジェを配置したり、大きな窓からは自然の光が差し込みながら小さな中庭を眺めることができ、きっちりとテーブルセッティングされたお席で非日常を演出しています。この10月に、キッチンの改装を少しする予定です。よりお皿の上での表現をできるように心がけていきたいです。

(3) 個性。その場所でしか、しかもそのシェフでしか表現できない、「何か」がないとダメではないかと考えています。例えばうちでは、生パスタに比重を置いて表現しています。上記に書いたように、非日常と日常のギャップがより必要で、これをうまく表現できる人が、残っていけるのではと思います。盛り付けや、料理のプレゼンテーションも個性を表現していくひとつの手段です。その表現方法も多彩になり、個性になっていると思います。自分はまだ5年目ですが、これからが本当にこの答えを見つける旅になると思います。個性、料理、空間もそうですが、人を呼ぶためには、発信も重要だと最近は考えます。SNSなどの無料媒体などの活用も必要になり、地方で成功するには、料理だけではなく、マーケティングや、自身のブランディングなどもより大切になってきます。わざわざお店まで足をお運び頂くことの大変さを理解して、より感謝の気持ちをお皿の上で表現することが必要になってくると思います。

© Makoto Ito
リストランテナカモト 仲本章宏さん

リストランテナカモト
Ristorante nakamoto

京都府木津川市木津南垣外122-1
0774-26-5504

兵庫県明石市 ピッツェリア

トラットリアピッツェリアチーロ 小谷聡一郎さん

(1) 豊富な海の幸、立地(アクセス)、人口。

(2)食材ありきのメニュー作り(何が入荷するかわからないので、メニューはこまめに変える)。地方ならではのゆったり感。

(3) コストパフォーマンス。立地。楽しさ。

© Satoshi Shiozaki
トラットリアピッツェリアチーロ 小谷聡一郎さん

トラットリア ピッツェリア チーロ
TRATTORIA PIZZERIA CIRO

兵庫県明石市本町1-17-3 ゑびや第二ビル1F
078-912-9400

兵庫県三田市 パティスリー

パティシエエスコヤマ 小山進さん

(1)大阪のベッドタウンであり、お店の周りは住宅地だが、自然豊かな土地が近隣に無数にあり、お店から5分ほど歩けば田園風景が広がっているような立地。それでいて交通のアクセスが良く、大阪・神戸・京都へは車で1時間、岡山・香川などの中四国でも2時間圏内と、非常に便利。また、伊丹空港までは車で30分なので、東京出張のときにも不自由を感じたことはない。加えて、地域の生産者の方々の熱意も頼もしい。無農薬の野菜、有機栽培の野菜、特産のイチゴなどもあり、料理人にとっては大きな魅力。

(2)初めは300坪から始まったお店であるが、日々改善を繰り返し、年経った現在は、敷地が1500坪、駐車スペースも100台になっている。テナントに入っているわけではないので、すべてのカテゴリーをオリジナリティの溢れる空間に創り変えることができる。公道を挟んで、建物と建物を〝緑の庭〞で繋いだ空間にできたのはこの土地ならでは。

(3)「お客様の一日をどうコーディネートできるか」が最も重要。当店の場合、お客様の平均滞在時間は平日で2〜3時間、休日で3〜4時間と長い時間お買い物を楽しんでくださっているという事実がある。ありがたいことに、それは当店で約半日をコーディネートできているとも言えるが、そうしていただくためには、各カテゴリーで看板商品を作り、毎月のように四季折々の新作アイテムを発表したり、スタッフも含めお店としても常に変化し、お客様に日々新しいサプライズを届けなければならない。今後は、「三田」という街全体でお客様の一日をコーディネートしていけるよう、既設の公園を活用し、郊外にレストランを建てる計画も進め、〝食〞を中心とした街づくりも動き出す。これについては、さまざまな料理人たちともコラボレーションをしながら一緒に考えていきたいと思っている。三田は、まずは「一日をコーディネートする街に」、そして将来は「一日では足りない街へ」をスローガンに、この取り組みを進めていくとともに、エスコヤマも街とともに成長していきたいと考えている。

© Yoshiko Yoda
パティシエエスコヤマ 小山進さん

パティシエエスコヤマ
PATISSIER eS KOYAMA
兵庫県三田市ゆりのき台5-32-1
079-564-3192

兵庫県赤穂市 ピッツェリア

さくらぐみ 西川明男さん

(1)赤穂御崎は、ナポリの田舎の海岸線に、すごく似ておりますし、ナポリは、乾燥パスタの中心の地域グラニャーノがあります。赤穂の前にある小豆島には、小豆島のそうめん、また、赤穂の隣にも、揖保乃糸のそうめんがあり、日本の"乾燥パスタ"の中心な地域でもあります。また、漁れる魚もナポリとほとんど同じ物がとれ、ナポリで食べた料理や、ピッツァ、パスタなどをそのまま日本で再現できる環境にあります。赤穂御崎の「さくらぐみ」を訪れたら、ナポリに来たのと同じ感覚で過ごして帰っていただけます。赤穂は、ナポリを体感できる街です。

(2) まるで、ナポリの片田舎の海のレストランに来たような錯覚をしてもらうように。また、実際ナポリ人が来た時には、ナポリより、よりナポリらしいと感じて帰ってもらうような、店内インテリアとか、世界初のテラゾを使った窯を築き、ナポリ現地の窯デザイン変更ブームのさきがけとなったり、さくらぐみでしか味わえない料理やわピッツァの提供をしております。ナンバー1より、オンリー1に、特に特化したレストランを目指しています。

(3) 都市部にある普段の生活を忘れてしまうような感動を、食事や、店内の雰囲気、周りの景色など、また、誰かと一緒に来たいと思わせる事が重要なコトだと思います。

© Kenichi Mikuni
さくらぐみ 西川明男さん

さくらぐみ
SAKURAGUMI
兵庫県赤穂市御崎2-1
0791-42-3545

兵庫県加古川市 イタリア料理

リストリアグランデアルベロ 丸尾大樹さん

(1) 兵庫は海にも山にもめぐまれているので、食材と酒の宝庫だと思います。近隣の野菜の生産者さんも沢山いらっしゃるので、野菜はほぼ地元のものでメニューが作れます。

(2)地元の食材だけだと、特別感が薄くなるので、必ずイタリアや海外の食材や調味料と掛け合わせ、田舎よりなので高級感も大切です(地方で田舎に近いので洗練された感じも大切です)。フロアも個室・カウンター・お子様連れ用テーブルのフロアに分けています。

(3) 地元の食材はもちろん、店のある街全体をアピールしていくことが大切だと思う。食事をしていただくまでとその後のストーリー性も作っていきたい。

© Shohee Murakawa
リストリアグランデアルベロ 丸尾大樹さん

リストリア グランデ アルベロ
RISTORIA Grande Albero

兵庫県加古川市加古川町 木村715-1
079-427-1066

本記事は雑誌料理王国2016年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2016年11月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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