1887年11月15日、ジョージア・オキーフはアメリカの中西部、センプレーリー郊外に生まれた。父が所有する広大な農場、その周りに広がる平原を遊び場にしながら、幼い頃からオキーフは自然との強い絆を築いていた。
18歳の時にシカゴで絵を描く勉強を始めたオキーフは、芸術家を志すが、体調を崩したり、教職に就いたりと、なかなかその道は定まらなかった。30歳を前に、後に夫となるアルフレッド・スティーグリッツに見出され、彼が経営するニューヨークの画廊「291」で新進気鋭の女性画家として作品が展示されることに。その後、精力的な制作と発表を重ね、画家として活躍するようになった。
絵を描くこととともに、オキーフはとりわけ歩くことが好きだった。「歩くことは、私をリラックスさせてくれます」と彼女は語る。オキーフは大地をゆっくりと踏みしめ、深呼吸し、自然を見つめ、自分を見つめていた。
ジョージア・オキーフ 「葉のかたち」1924年 油彩・カンヴァス
©All Photographs ©The Phillips Collection, Washington ,D.C. ©2011 Georgia O’Keeffe Museum / ARS, N.Y. / SPDA, Tokyo
作品「葉のかたち」(写真)、ここにもそんなオキーフの眼差しが見え隠れしている。折り重なる葉の上に、ふわりと置かれた紅葉した楓の葉。掌ほどの葉を、オキーフはまるで秋の象徴か精霊のように堂々と描き出している。同時に乾燥して亀裂の入った葉の姿は、かつて青々と木々を揺らしたであろうこの葉の、儚き最後の姿でもある。彼女が描き出す花や葉を見ると、どんな自然の一端にも、普遍的な生命や大地のあり方が宿っている、そんなふうに思わせられてしまう。
オキーフは日々の食事にもこだわりを持っていた。60歳を超えた頃から住み始めた、ニユーメキシコ、アビキューの家で作られていた食事の記録を見ると、素朴な料理に、彼女ならではの工夫がちりばめられている。アボカドのスープも、アボカドとミルクを混ぜ合わせるという素朴な一品。そこにカレー粉、ハーブ、仕上げのチャイブと白コショウの香りが立ち上がる。なめらかなやさしい味わいの中にあって、素材それぞれの存在感が不思議とかき消されることはない。冷たくしていただくとなんとも喉ごしがよい。
オキーフは目の前にあるものの神髄をじっと見据えた。彼女の絵画がまさしくそうであり、愛した食事もまた然りだ。自然の中を歩き、見つめ続けたオキーフの眼差しは、テーブルの上にもしっかりと向けられていた。
カレー粉を隠し味に、ハーブを加えて仕上げたクリーミーなスープ。オキーフは、素材を吟味し、素朴ながら繊細な味わいに仕立てたのだろう。
アボカド 1個
牛乳 2カップ
カレー粉 小さじ1
塩 小さじ1/4
白コショウ 適量
ハーブ(タイム、ローズマリー、セージなど) 適量
チャイブ(もしくはパセリ) 適量
Georgia O’Keeffe 1887−1986
20世紀のアメリカを代表する女性画家。写真は、彼女の作品数点を所有するワシントンD.C.北西部21番ストリート1600番地に位置するフィリ ップス・コレクション。
文・料理 林 綾野
キュレーター。美術館における展覧会の企画、美術書の執筆、編集に携わる。企画した展覧会に「パウル・クレー線と色彩展」など。『ゴッホ旅とレシピ』『モネ庭とレシピ』、近著に『フェルメールの食卓』(すべて講談社刊)。
北村美香・構成 竹内章雄・写真(料理)
本記事は雑誌料理王国2011年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2011年11月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。