生き残る料理とは何なのか?


伝統が古臭いとは限らないように創作こそが新しいわけではない

情報化社会では、「新しいものを作ろうとすること自体がマンネリ化してしまったのでは」とさえ思える。

どこに新しさを求める? 皿の色や形? 技法? 盛り付け? すべてやってしまった時代に、退屈じゃないものなんて、ある?10年前は良質な素材を切っただけ、焼いただけ、蒸しただけというシンプリシティに大満足していた。食材そのものの味を活かし、時には新しい味を発見する面白さは否定できない。しかし、そのブームも去った。

生き残る料理と消え去っていく料理の違いは何だろう

「伝統」と「創作」を並べると、前者が古臭く、後者が新しく華やかに聞こえるが、料理のスタイルの違いに過ぎない。創作性がなくては今日いま のクラシック料理は作れないし、しっかりした技術が基盤にない創作は、お遊びの領域を超えない。

料理の完成度の違いは、作り手の知性や勉学、労働量の差だと私は思っている。私はひとりの食べ手として、味に技術、知恵、ロジックがあれば満足できる。しかし、これらの条件を満たす料理は意外に少ない。

美食の核心には味との出会いと、その瞬間に覚える興奮がある。ではそれを生み出す源となるものは何か。

作り手の完成度へのこだわりと集中力、味を追求する意気込みではないか? 足し算と引き算を重ねながら味を作り上げるインテリジェンスに期待したい。――それが未来に繋がる料理のシークレット・レシピ。

【ケイ】 小林 圭さん

2013年の小林圭氏のシグニチャはスズキのうろこ焼き。最近はフランスでも頻繁に用いられる日本の技術だが、軽さ、食感、味――圭氏のうろこ焼きを抜くものは未だにない。

小林 圭さん

Restaurant KEI
レストラン・ケイ

5 Rue du Coq-Héron 75001 Paris
☎+33 (0)1 42 33 14 74
●コース 昼€56~、夜€99~
www.restaurant-kei.fr

【ボタニック】山口杉朗さん

「ボタニック」の「コック・オ・ヴァン」。私の記憶に残る真っ黒くドロドロの料理とは違い、繊細で上品だが、味の濃さとコク、こってり脳裏まで響く旨味はフランス食文化を見事に表現していた。


Botanique Restaurant
ボタニック

71 Rue de la Folie-Méricourt 75011 Paris
☎+33 (0)1 47 00 27 80
●コース 昼€19~、夜€60~
www.botaniquerestaurant.com

増井千尋さん

増井千尋 取材、文、撮影
パリ在住40年以上。4歳の時に東京からニューヨークに移住し、ロンドン、パリへ。ソルボンヌ大学で哲学を専攻。料理ジャーナリストとしての信頼は厚く、「プレ・カトラン」「ジョルジュサンク」「アストランス」など、パリの一流店のシェフの書籍を多数手掛ける。母は、半世紀以上ガストロノミーに身を捧げ、フランスの料理やワイン、チーズに関する書物を多数著す増井和子。

本記事は雑誌料理王国277号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は277号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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