「レストラン ヒロミチ」のオーナーシェフ、小玉弘道さんが理想とするポワレは、皮がパリッと香ばしく、身はふっくらと焼き上がったもの。コース料理の中で印象が薄くなりがちな魚料理でも、しっかりと存在感を主張できるひと皿をめざす。「アマダイの皮をカリカリに焼いて味わう日本料理があるように、日本人には皮がパリッとした魚料理を好むDNAがある」と小玉さん。
小玉さんにとって、イサキは白身魚というより脂ののった青魚に近いイメージ。ポレンタ粉をまぶすと、トウモロコシの風味と相まって脂が香ばしく香るという。しかも、カリカリとした食感のポレンタ粉自体が皮の軽快感をいっそう強調する。
さらに、焼きの工程にもひと工夫。最初にスペイン料理の鉄板・プランチャでじっくり火を通し、仕上げはフライパンに移して皮をパリッと焼き上げる。この2段階の工程により、ふっくらとした身とパリッとした皮のコントラストが生まれる。
温度設定できるプランチャと、フライパンの併用は、作業効率上もメリットが大きい。「温度設定ができないフライパンでは調理にかかりきりになるが、プランチャはほかの作業をしながら焼くことができる。大人数のパーティーでも作りおきせず、できたてを提供できるのも魅力」と、一石二鳥の調理法でもあるのだ。
Poêle(ポワル)とはフライパンのことで、基本的にはフライパンを用いて調理することを指す。フライパンに油脂をひき、少量の液体などを加え、蓋をして焼くように煮ることで、ロティールとブレゼを兼ねた蒸し焼き的な調理といえる。魚だけてなく、肉の調理にもよく用いられる。スペイン料理などでは、フライパンのみならず、プランチャ(鉄板)上で、ポワレと同様の調理技法を用いる例が多い。
カリカリのポレンタ粉をまとったパリッとした皮とふっくらとした身のコントラストが鮮やか。淡泊なイサキは甘酸っぱいサボテンのピュレや濃厚な魚介のソースなど3種のソースで楽しむ。食感の違いなどさまざまな要素をひと皿に盛り込んで印象に残る魚料理に仕立てた。パリッとした皮の食感を好む日本人の嗜好を汲み取った、日本人シェフならではのポワレだ。
<ポワレ>
イサキ…60g/ポレンタ粉、塩、コショウ…各適量/オリーブオイル…適量
<付け合わせ>
ゆでたブロッコリー…2個/ラビオリ(エビ、ホタテ、鶏のムース詰め)…2個/ローストしたシイタケ…2枚/サフラン入りマヨネーズソース、ウチワサボテンの花のピュレ、スープ・ド・ポワソンを煮つめたソース…各適量/香味野菜のアッシェ…適量
[作り方]
1.厚さ約2㎝のイサキの切り身に塩、コショウし、ポレンタ粉をまぶす。
2.220℃に熱したプランチャにオリーブオイルをひき、皮を下にして水分を飛ばすようにじっくりと焼く。指でしっかり押さえて、皮全体をまんべんなく焼くのがポイント。
3.8割方火が通ったら、オリーブオイルをたっぷりひいたフライパンに皮を下にして移し、強火で皮がパリッとするまで焼きつける。
4.仕上げにさっと返して身の面も焼き、皿に盛り付ける。
5.付け合わせのブロッコリー、ラビオリ、香味野菜のアッシェを盛り付け、ラビオリの上にシイタケをのせてキノコに見立てる。
6.仕上げにサフラン入りマヨネーズソース、ウチワサボテンの花のピュレ、スープポワソンを煮つめたソースを流す。
パリッとした軽快な食感の皮とふっくらとした身のメリハリのある焼き方はスペイン料理の鉄板・プランチャと、フライパンによる2段階の火の通し方にある。まず、皮を下にしてプランチャでじっくりと火を入れたあと、たっぷりオリーブオイルをひいた強火のフライパンで皮を焼きつける。小麦粉でなくポレンタ粉をまぶして焼く効果も大きい。カリカリとしたポレンタ自体の食感が、パリッとした皮の食感を強調する。
1971年埼玉県生まれ。「アンフォール」を経て2000年に渡仏。「ジャルダン・デ・サンス」などで修業し、帰国後、赤坂「シュマン」のシェフを務め、09年4月「レストラン ヒロミチ」をオープン。
本記事は雑誌料理王国207号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は207号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。