食の都パリで、食ジャーナリストして活動する伊藤文さんから届く美食ニュースをお届けする本連載。今回は、2年以上にわたる改修を終えてリニューアルオープンした「ディオール」パリ本店に新設されたレストランをレポート。
シャンゼリゼ大通り界隈、ラグジュアリーブランドが立ち並ぶモンテーニュ大通り30番地に、先の3月6日、ディオール旗艦店「30 Montaigne」がオープンした。
もともとはクリスチャン・ディオールによる第1号店であり本店。新たなダイナミズム溢れる場所にするべくプロジェクトが持ち上がり、2年以上前から工事が始まっていた。
6階建の1万平米以上ある広大なスペースで、インテリアを手がけたのは、著名な建築家ピーター・マリノ。ブティックはもちろん、ブランドの歴史を紹介するミュージアムとでも言うべきギャラリー、プライベートの宿泊施設、そしてレストランとカフェスペースに、庭園も設けられて、フランスを代表するファッションブランドとしての、威光を新たにしている。
食業界で話題になっていたのは、本館2階のレストラン「Monsieur Dior」と、庭園に面した1階のカフェスペースである。レストランのシェフに白羽の矢がたったのが、モンテーニュ大通り25番地にある5つ星ホテル「プラザ・アテネ」の料理長に就任したばかりのジャン・アンベールだったからだ。近距離にある双方のレストランの料理長を務めることが決定して、果たして料理の差別化を図れるのか、モラル上どうであるかなど、物議を醸したことは言うまでもない。
アンベールは、ディオールの親会社LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)との蜜月にあり、LVMHが手がけるプロジェクトに次々と就任している。きわめつけは、傘下にあるBelmondグループが運営する「ベニス・シンプロン・オリエント急行」の総シェフにも選ばれたこと。
「Monsieur Dior」で展開される料理は、1972年にディオールが出版したレシピ本「La Cuisine Cousu-Main(テイラー・メイド料理)から着想を得ているという。ムッシュー・ディオールは、ファッション界きっての美食家で、自ら厨房に立ち、友人たちに料理を振舞ったり、デザイナーの仕事を料理になぞらえることも多かったという。レシピ本は、そんなムッシューにオマージュを捧げて出版されたもの。卵料理やサラダ、魚料理、スープなど、ムッシューが愛した28種のレシピが掲載されている。
トリュフの「クロック・ムッシュー」や、キャビアを添えたゆで卵「クリスチャン・ディオール」、ディオールがショーの前に必ず食べたという逸話の残る「ステーキ、フライドポテト」。すべては、ブランドのオリジナルプレートで提供されており、ワインリストには本店がオープンした記念すべき1946年のミレジムも揃えるなど、ディオールの世界を100%楽しめる内容に。
1階の緑あふれるカフェスペースではバリスタが提供するコーヒーとともに、ディオールのシンボルの一つであるスターをあしらった生菓子やタルトも楽しめる。
美食とファッションの交差点としての、パリの新名所となりそうだ。
text:伊藤 文