セーヌ川左岸、アンバリッド広場もそばに2016年にオープンした5つ星のブティックホテル&スパ「ナルシス・ブラン」。そのホテル内にあるレストラン「クレオ」が密かな人気を集めている。
シェフを務めるのはブルーノ・オーバン。1989年生まれの精鋭だ。人気の料理番組「トップシェフ」に2021年のシーズン12に挑戦してから、パブリックにも知られるようになったが、高級レストランでの下積みで腕を磨いている。ボルドー地区サンテミリオンの2つ星シェフ、フィリップ・エシュベスト、パリでは3つ星シェフ、エリック・フレションに師事し腕を磨いてきた。また調理師学校では技術だけでなく、マネージメントも学んで、料理を通じた経営にも注意を払ってきた。
「ナルシス・ブラン」は、インディペンデントのホテルグループ「リーニェ・ホテル & ドメーヌ」が経営するホテルの1つだ。パリではこのホテルは2軒目で2016年にオープン。2018年に、「ナルシス・ブラン」の料理長として、若手で挑戦力のあるブルーノ・オーバンに白羽の矢を立てた。パリのほか、ボルドー、そして最近ではロンドンにもホテルをオープンしたばかりだが、その本拠地は「シャトー・スシェリ」にある。2007年に、乳幼児と妊婦の栄養食品で成功した、グループ全体の代表であるロジェ・フランソワ・べギノが買い受けたワイナリーであり、宿泊施設も併設している。
「ナルシス・ブラン」のレストラン名でもある「クレオ」は、19世紀から20世紀に活躍したフランスのバレーダンサー、クレオ・ド・メロースの名前からとった。著名な画家であり彫刻家でバレエをテーマに作品を手がけたエドガー・ドガだけでなく、ポール・ナダールなどの写真家も彼女をモデルに起用するなど、切っての美女としても知られていた。その彼女にオマージュを捧げたフェミニンかつエレガントな内装で、緑のあしらわれた中庭も落ち着ける空間だ。
「好きな料理は、エリック・フレションに学んだクラシックなフレンチ」というブルーノ・オーバン。アカデミックな師匠達の下で学んだからこその技術と、新しいフレーバーを取り入れたモダンなタッチとで、個性を生み出している。
例えば、アーティチョークは茹でるだけでなくからりと揚げてクリスピーに仕上げ、セザールソースとバジリコソースを散らしている。グリルをしたカリフラワーに、オマールのソース、とびこと粒マスタードをあしらったサラダ。そして秀逸なのはホワイトアスパラのタルトだった。タルト生地に白味噌とバニラビーンズを隠し味にして、まろやかな味わいが白アスパラの苦味と甘さとあいまって、繊細なハーモニーを作り上げていた。オリジナリティを演出しやすい前菜に対し、メイン料理においても、魚や肉の火入れも抜群だ。
常に挑戦することが好きだというオーバンが目下手がけているのは、ワインとのマリアージュ。「シャトー・スシェリ」のワインからインスピレーションを得た料理を作ることだ。「シャトー・スシェリ」は、ロワール地方コトー・デュ・レイヨン地区ボーリュー・シュール・レイヨンにあり、バラエティ溢れるワインを生産する。コトー・デュ・レイヨン、サヴニエールの白、アンジュー・ヴィラージュの赤、クレマン・ドゥ・ロワールのスパークリングワインほか、オレンジワインにも挑戦している。
また2020年には養蜂もはじめた。2022年には有機であることが認められABラベルを獲得。オーバンはシャトーにしばしば出向き、ディレクターであるヴィアネイ・ドゥ・タストと仕事を交えることは刺激的だと言う。
アーモンドを散りばめた鯛と桃のカルパッチョには、アンジュー・ブランAOCの白を。
ポトフ風に煮込んだ牛肉をほぐして、炒めた玉ねぎ、フォアグラ、イチジクを乗せ、オニオン風味のクリームソースで覆った一皿には、樹齢50年のカべルネフランの赤ワインを。ワインリストには3種のシャトーのワインをグラスでチョイスできる35ユーロのセットを用意しているのもお値打ち。それに合わせた料理を尋ねて味わうのは、この店でしかできない楽しみだ。
Cléo
19 Blvd de la Tour Maubourg Paris 7
https://www.restaurantcleo.fr/
Instagram @restaurant_cleo
text: AYA ITO