「フランスでもフォワグラは高級食材。駆け出しの料理人は、そうじといえども扱わせてもらえません。私も初めて入った店では、2年くらい触らせてもらえませんでしたよ」とクリストフ・ポコさんは言う。
その分、シェフが調理している姿を一生懸命に見て、やり方を覚えた。フォアグラのそうじに限らないが、若い頃、「見るのも勉強」とシェフに教えられたからだ。
その教えは、今、「ルグドゥノム・ブション・リヨネ」の若い料理人たちにも受け継がれている。ポコさんの手元を見る料理人たちの目は、真剣そのものだ。
フォワグラに関しては、基本的に産地にはこだわらない。むしろ、育つ環境やエサを重視する。それが、品質の善し悪しに直結するからだ。「フランス産だって良い物もあれば悪い物もある。産地を気にするより、良い物を見極める目が大切です」
つやがよくて、きれいなクリーム色をしているものが良い。暗い色のものや、逆に白っぽいものはダメ。切り分けたときに断面がボソボソしているものも、避けたほうがいい。
ポコさんは、フォワグラのそうじをするときに、ほとんど包丁を使わない。フォワグラを2つに切り分けるときに使うだけだ。あとは、自分の手でていねいに、慎重に筋や血管を外していく。
「包丁を使うと、筋や血管を切ってしまうリスクがあります。そうすれば、フォワグラに血が付いて風味が落ちてしまいます。血管や筋の切れ端が残ってしまうと、当然、舌触りが悪くなる。そうならないためには、手で感触を確かめながら、慎重にそうじするのがいちばんいいんです」
集中して、無駄にフォワグラを傷つけることはしない。そうじをしたあとにひっくり返しても、手つかずのフォワグラそのもののつるりとした形状を保つ。
おいしいフォワグラ料理 ポイントは「そうじ」
フォワグラの味わいを決定づけると言っても過言ではないそうじ。これをきちんとやることで、フォワグラそのものの味はグンとよくなる。
【1】キッチンペーパーで軽くフォワグラを包み、余分な水分や脂、血などを取り除いていく。
【2】包丁で、血管や筋を傷つけないように、ていねいに2つに切り分ける。包丁を使うのはこのときだけ。
【3】切り分けたときの断面を見れば、フォワグラの善し悪しが分かる。断面が滑らかなものが上質。
<POINT> ココがボソボソしているのはダメ
【4】フォワグラの平らになっているほうを上に向け、手で少しずつ掘り進んでいく。
【5】指で少しずつフォワグラを開きながら、血管や筋のありかを探っていく。
【6】血管や筋が見えてきたら、その周りのフォワグラを少しずつ血管や筋からはがしていく。
【7】ある程度血管や筋が見えてきたら、指でゆっくり取り除いていく。
<POINT>指を血管や筋の下に入れて持ち上げる。
【8】血管や筋が途中で切れないように、注意を払いながら、血管や筋をゆっくり持ち上げていく。
<POINT>途中で切れないように注意!
【9】幾重にも枝分かれした血管や筋がきれいに取り除かれる。大きな血管は2本あるので同様に取る。
【10】血管や筋を取り除いたフォワグラはひっくり返して、形を整える。こちらの面は、きれいなままだ。
【11】血管や筋は裏ごしして、周りについたフォワグラだけを取り出す。こちらはソースなどに使う。
ポコさんに、生まれ故郷リヨンの定番、豚足とリヨンソーセージのファルス、フォワグラを合わせたテリーヌを作ってもらおう。
豚足のゼラチン質と豚肉の旨み、フォワグラのコクに加え、アクセントとしてトランペット・ド・ラ・モールとピスタチオを入れ、風味に相乗効果をもたせて、おいしさを増幅させていく。
「昔からあるクラシカルな料理ですが、プレゼンテーションは洗練させる。それが私のスタイルです」
きれいに血管や筋を取り除いたフォワグラに、塩コショウをふる。血管や筋をとったところには、とくにたっぷり塩コショウをする。さらに、砂糖とポルト酒を合わせてラップをし、一晩、マリネする。
豚足は柔らかくなるまでゆでて、骨を取り除き、四角い型に入る大きさに成形して冷蔵庫で冷やす。
リヨンソーセージのファルスは、豚バラ肉や豚肩ロース肉、豚背脂を塩、コショウ、砂糖、シャルトリューズで2日間マリネし、粘りが出るまで混ぜてピスタチオを加える。そこに、みじん切りにしてバターでソテーして塩コショウで味付けしたトランペット・ド・ラ・モールとエシャロット、粗めに刻んだイタリアンパセリなどの香草を加え、トリュフオイルやジュ・ド・ヴォライユ(鶏の出汁)を入れて、再び良く練る。
あとは、フォワグラ、豚足、リヨンソーセージのファルスを、積み上げるように順番に型に入れていく。
その後、型ごと真空にして冷蔵庫で一晩寝かせ、85度のコンベクションオーブンで加熱すれば、5層に積み重ねられた断面も美しいテリーヌの完成だ。
「フランス人にとってフォワグラは特別な食材。昔も今も大切な日に食べるごちそうです」とポコさん。
3日間かけてつくる手間暇かけたひと皿。そこには、リヨン生まれのフランス人シェフの、誇りと愛情が詰まっている。
山内章子=取材、文 星野泰孝=撮影
本記事は雑誌料理王国第269号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第269号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。