2017年、「銀座レカン」の7代目料理長に就任した渡邉幸司シェフは、格式高いグランメゾンにて、時代に合致する“クラシック”と“洗練”を追求する。
渡邉シェフが修業を開始したのは、大阪の名門、リーガロイヤルホテル。「約30年前のことです。当時のホテルの売りは、クラシックなフランス料理でした。そこでフォンやソースをしっかりと作る伝統的な仕事を徹底的に学ぶことができたのは、私にとっての大切な財産となっています」。
そんな渡邉シェフがフランス料理の醍醐味だと感じているのが、“凝縮感”と“うま味を抽出する、重ねる”という点。煮詰め、アクを取り、漉し、澄ませる……こうした技術が、フランス料理では徹底的に磨きこまれている。その技術を身につけて行う表現は、他のジャンルに比べると格段に幅が広い。「自分の中で技術や味をどう重ね、目指す味を作り上げていくか。挑戦しがいのあるテーマです」。
原形はこの料理!
ブイヤベース
繊細に火を入れたオマールの身を、ブイヤベースをイメージしたソースとともに提供する。ブイヤベースは、多種多様な魚介類を煮て、トマト風味で仕立上げた南仏の郷土料理だが、その複合味を洗練させてソースとした。オマールのビスクのソース、ブイヤベースに欠かせないルイユ(ニンニクをきかせた、卵黄とオリーブオイルの乳化ソース)も盛り込む。オマールのミソは春キャベツとともにテリーヌに。南仏らしさ、春らしさを前面に出した、生き生きとした一皿。
原形はこの料理!
仔羊のナヴァラン
「仔羊のナヴァラン」は、仔羊のバラ肉や肩肉を野菜と煮込んだ素朴な料理だが、それを高級レストランらしい優雅な皿にした。ここでは、仔羊は背肉のロティと、腿肉の煮込みを盛り合わせる。両部位ともしっとりと仕上げるが、特に腿肉の煮込みの調理法が特徴的。試作を重ねて完成した独特の低温調理により、繊維を感じさせない、なめらかで柔らかい食感とする。色とりどりの春野菜を、それぞれの風味をはっきりと感じるよう調理し、美しく添えた。
今回取材した3人に共通しているのは、クラシックであることが目的なのではなく、自分のおいしいと思う味を求めたら自然とクラシックな料理になっている、ということ。伝統料理が心底好きで、言うなれば「クラシックを信じている」のだ。
料理界の流行は目まぐるしく変わる。時代ごとの新しい波、「分子ガストロノミー」、「イノベーティブ」、「個の料理」という言葉が登場して注目を集めるたび、そこには、「クラシックなフランス料理とは違って」というニュアンスがあった。そして、クラシックなフランス料理が、どことなくネガティブなイメージを着せられてしまっていた。
text 柴田泉 photo 山下亮一
本記事は雑誌料理王国2020年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年5月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。