食の未来が見えるウェブマガジン

「主役は食材であり生産者」 ノマドシェフがポップアップレストランを始めた理由(NOBU/kermis)


料理人が担う役割にも変化が現れ始めている。「美味を提供する職人」として機能していた料理人が、「社会課題や未だ知らぬ食文化のコーディネーター」とでも呼びたくなるような役回りを帯び始めている。敢えて店舗を持たずに活動の幅を広げる料理人。都市部ではなく地方に目を向け、拠点すら構える人。他ジャンルの料理人やクリエイターと協働する人。思いやミッションを達成するという目的のためなら、手段を問わず、価値を生み出す料理人を紹介する。

kermis CONNECTED TO >>> [ ポップアップで広がる縁 ]

2020年4月30日まで、東京・中目黒でオープンしているポップアップレストラン「kermis×hangar」。 2年前から日本各地で開催しているポップアップで出会った生産者の食材を取り入れたメニューを提供している。その料理には「主役は食材であり生産者」と黒子に徹するノマドシェフの生き方が表現されていた。

ポップアップレストランは価値をシェアする場所

動かないと何も起こらない。 動いたら必ず何かがある


「東京に店舗を持つことも考えましたが、生産者のもとを訪ねたり、自由に旅する時間が持てなくなると思って」。NOBUシェフがノマドというスタイルを選んだ一番の理由だ。 kermisを立ち上げ、日本各地でポップアップレストランを開催する度に、秋田「T-FARM.」、静岡「北山農園」、広島「ブーランジェリー・ドリアン」、熊本「玉名牧場」、福岡「しかや」といったこだわりの強い生産者との出会いを重ねてきた。「動かないと何も起こらない。動いたら必ず何かがある」がシェフの信条。ポップアップ先が決まるのも生産者との出会いも、すべては人との繋がり。シェフが生み出す料理の品質が信頼となり、お客さんまでもがシェアされる。「信頼できる相手にはシェアしたくなる。そんな考えを持ったシェフやお客さんが増えていると思います」。生産者の元を訪れた際は、食材のことよりも人柄に触れる時間を大切にするそう。時には畑の草むしりを手伝い、夜に盃を交わし、ともに過ごした時間が食材に対する理解を深める。

現在、東京・中目黒で開催しているポップアップレストラン「kermis×hangar」では、初回はコースのみ、 2回目以降はアラカルトにも対応。各地で出会った生産者の食材を取り寄せ、その時々の味わいを見極めて料理を決めるため、メニューは頻繁に書き換えられる。そして、kermisが用意する席は常に10名以下に限定。「利益を考えたらもっと大勢を相手にできればいいのでしょうが、それはやりたくない。お客さんとの距離が遠くなってしまうので。生産者や食材への想いを、料理を通して伝えていくことが僕の仕事。主役は食材と生産者さんだと思っています」。

北山農園の山野草とT-FARM.の玄米のリゾット

静岡のポップアップ「kermis×harikae×Space」のときに農園を訪問
北山農園 静岡県富士宮市

秋田のポップアップ「kermis×GRANDMA」のときに農場訪問
T-FARM. 秋田県大仙市

静岡のオーガニック野菜ファーム「北山農園」で育つ山野草から、タネツケバナ、ヤブジラミ、ハコベ、ヤエムグラ、ユキノシタ、ナズナの花をピックアップ。秋田の無農薬無化学肥料農家「T-FARM.」の玄米で作るリゾットに合わせた。味付けは、ふぐの卵巣の粕漬、昆布と鰹の出汁、醤、バター。玄米のテクスチャーがアクセントとなり、思わずナチュラルワインに手が伸びる味わい。日本の摘草文化や農の本質もいっしょに咀嚼したい。

ブーランジェリー・ドリアンのパン・ド・カンパーニュと生酛発酵バター

広島のポップアップ「kermis×Coin」のときに工房を訪問
ブーランジェリー・ドリアン 広島県広島市

「捨てないパン屋」で有名な広島のブーランジェリー・ドリアンとは、kermis発足当時からの付き合い。国産有機栽培の麦と自然発酵の種で作られたシンプルなパンを、昔ながらの薪の石窯で焼き上げている。香りよくもっちりとしたパン・ド・カンパーニュに添えられているのは、日本酒の生酛造りの工程で発生する乳酸菌で発酵させたバター。某酒蔵の蔵人の協力により完成した。升の木香がほのかなニュアンスを与え、優しい味わい。

しかやの鹿のロースト さつまいもとフルーツのピュレ 菊芋の味噌漬け

出会いは九州ポップアップツアー師匠と仰ぐシェフからの紹介
しかや 福岡県嘉麻市

元フランス外人部隊の銃猟猟師が運営する、福岡の鹿肉卸専門店「しかや」の鹿肉。狙われている状況に気付いていない鹿をターゲットに、脳の特定部位を撃ち抜く高度な銃猟技術により、個体にストレスがかからない。後処理にもこだわり、チルド管理を徹底。NOBUシェフは福岡の「クロマニヨン」で「しかや」の鹿肉と出合い、舌と心を一発で撃ち抜かれた。丁寧にローストされた鹿肉は、程よく美しい野性味。しばらく鼻腔に留まる余韻も格別だ。

「kermis×hangar」でおすすめしている日本酒は、群馬の土田酒造「土田」。蔵元と杜氏の絶妙な関係性、造りの姿勢に共感し、蔵にも足を運んでいる。ちなみにナチュラルワインのセレクトは、東京・目黒のビストロ「メグロ アンジュール」に依頼。ポップアップでコラボした縁が現在も続く。

HOW TO RESERVE
2020年4月30日(木)まで開催中
POP UP RESTAURANT「kermis×hangar」
東京都目黒区上目黒1-14-6メゾンベルウッド1F
火~金 14:00 ~ 23:00 / 土 12:00 ~ 23:00 / 日月不定休
予約方法:[email protected]
またはInstagram「kermistokyo」からDMで

PROFILE
NOBU
1981年生まれ。2018年にポップアップレストラン「kermis」をスタートさせ、日本各地を飛び回るノマドシェフに。昨年11月には、世界中からトップシェフが集結した食の祭典『Off Menu HongKong』に参加。自分よりも食材と生産者を前面に出したいという信念から、本名ではなく通称のNOBUを名乗る。


text 馬渕信彦 photo 奥山智明、梅澤豪

本記事は雑誌料理王国2020年4月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年4月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


SNSでフォローする