2019年にパレスホテル東京にオープンした「エステール」を率いる、28歳のマルタン・ピタルク・パロマーさん。東京で腕をふるうフランス人シェフは、日本の食材でどのようにフランス料理にアプローチしているのかを聞いた。
秋田県産ヒラスズキ / ホワイトアスパラガス日向夏
ヒラスズキはミキュイに仕立てる。いい素材は味も色も食感が活きるように「火入れ時間はア・ラ・ミニュット」とシェフは言う。ホワイトアスパラガスは、柔らかい部分は日向夏の皮だけで香りづけし、根元の部分は糠とビールと塩で漬けて発酵(コラム参照)させてから薄くスライスし、サッと焼いている。日向夏は皮に小さな穴をあけて丸ごと焦げるまでロースト。穴から溢れた果汁は魚の頭などを加えて短時間加熱しソースに。ほぐした実はローストした日向夏の器に戻し添えている。乾燥させた魚の骨、アスパラガスの外皮も料理とともに供し、目を楽しませる。
フランスで使っていたスズキとは違う、繊細な味わいの活〆したヒラスズキと春の味覚である岩手県産ホワイトアスパラガス。シェフいわく「エレガントな」ホワイトアスパラガスには、ほのかな香り、やわらかな酸味の日向夏がよく合う。
北海道産牡丹海老の炭火焼 / グリーンピースとアーモンド
主役の牡丹海老は塩、ジュニパーベリー、タイムなどで風味づけ後、シンプルにBBQグリルで焼き、スモーク風味もまとわせる。頭の部分は“天ぷら”に。グリーンピースはソースにするだけでなく、さやはパウダーに、薄皮は長野県産アーモンドを主材料にしたベジタブルチーズ(コラム参照)に入れて使い尽くす。甘味、辛味と特徴の違う小玉ねぎ2種類が海老の甘味を引き立てる。
通常の倍の大きさ、約90gの牡丹海老、さや入りグリーンピース、生アーモンド、ベビーオニオン、ペコロス。材料はすべて国産。グリーンピースは新芽の出たつるからさやまですべてが皿に盛り込まれている。
Chefのこだわり
乳酸発酵とベジチーズ
「発酵をさせることで、素材からナチュラルな酸味を引き出せる」ことから、ピタルク・パロマーシェフはこのテクニックを好む。今回の料理では、ホワイトアスパラガスの根元を米糠とビール、2%の塩で漬けて3時間発酵させてからソテー。「日本の糠漬けにも通じる乳酸発酵で、様々な酸味を表現できる」とシェフは言う。一方、「自分だけのオリジナルを作る」ことにも熱心で、ベジタブルチーズもそのひとつだ。生アーモンドを水に浸けてから粉砕してアーモンドミルクを作り、イーストを加えて48時間発酵させると、プルッと独特な食感の“チーズ”ができる。
シェフに質問!
Q 日本滞在歴は?
A 約7ヶ月
Q あなたにとってすごい日本の食材は?
A 魚。フランスでは三つ星レストランでしか手に入らなかった活〆の魚が使えるのが嬉しい。
Q 食材探しはどのように?
A 「ベージュ アラン・デュカス 東京」のKei(小島景さん)に聞いたり、フランスの食材店で働く友人に紹介してもらったり。長野県のアーモンドはこの友人が教えてくれた。力強い野菜やハーブを作る埼玉の生産者とも出会えた。
Q 気になる日本の素材は?
A ナスがおいしくて、牛肉のミスジと合わせた料理はスペシャリテのひとつ。気になるのはシソ、ミョウガ、イカ、沖縄のパイナップル。
Q 気になる日本の素材は?
A 塩、砂糖、脂肪分をできるだけ控えて体にやさしく。もうひとつはサスティナビリティ。地球にもやさしく。
Q あなたらしい料理のテクニックは?
A 発酵とスモーク。食材を徹底的に余すことなく使うこと。自分だけの新しいテクニックを編み出したいというのは、最近のフランス料理のシェフは誰もが考えている。私も同じ。
エステール
東京都千代田区丸の内1-1-1
パレスホテル東京 6階
TEL 03-3211-5317(10:00~21:00)
11:30~14:00LO、18:00~21:30LO
https://www.palacehoteltokyo.com/restaurant/esterre/
text 松野玲子 photo 長瀬ゆかり
本記事は雑誌料理王国2020年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年5月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。