フードジャーナリスト柴田泉が見つめる「レストランこれから」の、これから「フィーコディンディア」横井拓広シェフ


改めて、「お客さまの幸せのため」
という目的の大切さが身にしみました

5月7日のフィーコディンディア

東京・ 新宿から急行で1時間ほどの郊外、神奈川県の本厚木駅近くに立地する「フィーコディンディア」は、横井拓広シェフが率いるシチリア料理店。2009年にオープンして以来、地元客、遠来のお客両方から支持を集める、活気に満ちた店だ。フィーコディンディアがコロナの影響を受けはじめたのは3月後半、歓送迎会などの予約のキャンセルが相次いだ時。そんな店の状況と社会情勢を見ていち早く、4月初旬からテイクアウトの販売とケータリング、出張料理を開始した。
テイクアウトでは「シチリア料理店」という専門性はいったんおいておき、カレー(500円~)、ピッツァ(800円~)、丼もの(750円)、パスタ弁当(900円)などをラインアップ。「日常の中で必要とされているのは何か?を考えて判断しました」と横井シェフは言う。

住宅地を控える場所柄、緊急事態宣言の発令中はこのテイクアウトが大人気を博した。取材したのは、テイクアウト販売開始から1ヶ月を迎える頃で、「最初のうちは通常営業の半分以下という売上げでしたが、今では損益分岐点が見えてきました」と好調。 普段から地域のお客を大事にする店らしく、「皆さんに励ましていただいたり、『うちのマンションにポスティングするからチラシをちょうだい』なんて言ってくれる方もいて……。 泣いちゃうくらいありがたいです」ということも。また、「お客さまには常々、最大に感謝してきたつもりでしたが、それとは比べ物にならないくらい助けていただいていると感じています」と話してくれた。

それから&これから

5月下旬に緊急事態宣言が明けてからは、フィーコディンディアでも他の多くの店と同様、レストランの営業に軸足を置くようにシフトしていった。自粛ムードが解けるとともに客足は伸び、週末を中心に客足はきわめて好調だという。
一方、 4月と5月の売り上げを支えたテイクアウトは、通常営業以上に仕込みに手間がかかり、スタッ フの体力を削いでしまうため6月からは基本的には休止に。レストランの営業では、席の間隔を十分にあけ、「お客さまに安心感を持っていただくことが大切」と、目に見える場所に空気清浄機を設置。他の衛生対策も徹底している。

営業を再開した6、7月を通して、お客が順調に戻ってきているフィーコディンディア。これは、2009年のオープンから一貫して“料理を通してお客さまの役に立つ”ことを第一の目的に掲げてきたからこそ、と言えるだろう。「『営業を本格的に再開した時、本当にお客さまは戻ってきてくださるのか?』と、どの店も不安だったと思います。そして実際に再開を迎えた時、いろいろなお店の状況を見てみると、普段から “お客さまの幸せのため”という健全な目的を明確に持っている店がやはり強い、と改めて感じました。もちろん、『じゃあ自分はどうなんだ?』という問いが突きつけられる。その点は、スタッフとともに、今まで以上に厳しく追求しています」と話す。

そして「僕たち世代は、若い料理人にこのことをしっかりと伝える義務がある」と横井シェフ。つまり、「料理の技術だけでなく、“料理はあくまでもお客さまの幸せのために作る”ということを後進に伝えられる料理人になる。それが、これからの時代に求められる料理人像なのではないか、と思っています」。

text 柴田泉

本記事は雑誌料理王国2020年10月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2020年10月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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