一大センセーションを巻き起こした肇さんのスペシャリテ「ミネラル」が、2012年の店舗リニューアルでさらに進化を遂げた。同じく『地球の循環』がテーマの「chikyu 地球」は、地球を模した直径60センチの大皿の上で展開する。山に雨が降り、川となって海に注ぎ込む。大地のミネラルを吸収するのは野菜、海では貝。100種類以上の野菜で陸を、貝のエキスで雲と水を表現、ふたりでシェアする壮大なひと皿だ。「人間も循環の一部。両側から食べることで完結します」。
店には常に120種類以上の野菜をストックし、そのコンディションやバランスを見ながら100種類ほどを選ぶ。皿いっぱいの野菜に、葉の一枚すら同じものはない。ピュレ、ボイル、フライ、生などそれぞれに調理し、食べ進む順番も考慮しながら、味や温度の違う野菜を組み立ててゆく。見た目は絵画のように美しいが、それを上回る緻密な計算が、料理としてのポテンシャルを高めているのだ。「僕の思った順番で食べてもらえないことも多いですが、通る道が違っても同じゴールにたどり着くように調和を取っています」
肇さんは店全体のテーマとして「地球との対話」を掲げる。「chikyu 地球」は、その象徴的なひと皿だ。コースの始まりは「森」。「生命」「磯」「近海」……と続き、まさに地球と対話しているような時が流れる。「地球」「海」「破壊と同化」「希望」を経て、最後のデセールは「愛」。
「食べるということは希望そのもの。少しでも希望を得て帰っていただきたいんです」「ガストロノミーをベースに、生命学、生物学、脳科学、経営学、建築学、宇宙科学などを通して独自の世界観を表現し続けたい」と肇さんは語る。つまり宇宙にある様々な調和を通して、料理を創り、構成するということ。店内に余計な装飾を行わないのも、料理に集中するためだ。照明も押さえ気味にした。
店舗のリニューアルで店名を「HAJIME」と改めたのは、自分の料理がフランス料理の範疇に収まらなくなったからだ。「HAJIME」で過ごす時間は、「食事」という範疇にも収まらない。映画や美術品を鑑賞するに似た、驚きと感動の体験なのだ。
HAJIME
大阪市西区江戸堀1丁目9-11アイプラス江戸堀1F
06-6447-6688
● 17:30~20:30(入店)
● 不定休
● 24席
www.hajime-artistes.com
藤田アキ=取材、文 川瀬典子=撮影
本記事は雑誌料理王国第260号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第260号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。