日本人の健康寿命を縮める!4つの体質の弱点


「健康寿命」という言葉を聞いたことがあるだろうか。日常的、継続的な医療・介護に依存しないで、自立した生活ができる期間を指す言葉だ。平成22年に厚生労働省が発表したデータによると、男性の平均寿命は79.55歳、健康寿命は70.42歳。女性は平均寿命が86.30歳、健康寿命は73.62歳。つまり、不健康、または介護に依存した生活期間が、男性では約9年、女性ではなんと約12年も続くことになる。

日本人の健康寿命が短い原因は何か、また、それを補う味方となる栄養とは何か。神戸大学医学部客員教授の寺尾啓二先生に伺った。

日本人の健康寿命を縮める体質の弱点

飽食時代になり、多くの栄養が摂れるようになっても、摂取した栄養を効率的に消化・吸収しにくい日本人の体の弱点とは。

【弱点1】血液温度が低い

食物から摂取した脂肪は人間のエネルギーとなるが、使いきれなかったものは体に蓄積し、肥満へとつながっていく。私たち人間が摂る脂肪には2種類あり、それぞれ別々の食物に含まれている。ひとつは牛や羊などの肉から摂取する「飽和脂肪酸」、もうひとつがおもに魚から摂取する「不飽和脂肪酸」だ。飽和脂肪酸は常温で固まり、体内ではドロドロの状態。一方、不飽和脂肪酸は常温で固まりにくく体内でサラサラの液体である特徴を示す。脂肪は血液とともに体中に運ばれるため、飽和脂肪酸が多いと血液までがドロドロになってしまうのだ。

飽和脂肪酸を大量に含む羊は血液温度が44℃もあり、飽和脂肪酸をなめらかなまま保有できる。脂肪は温かいと溶けるためだ。しかし、私たち日本人は37~38℃しかないので、大量にとり込むと血流がドロドロに固まり始める。昔から肉を多く摂り、脂肪を効率的に燃焼してきた欧米人は血液温度が39℃と日本人よりやや高く、わずかな温度差ではあるが、日本人より飽和脂肪酸の悪影響を受けにくい。

そのため日本人は、低温でもサラサラな不飽和脂肪酸を摂取してきた。これを含んでいるのが、冷たい水中に生息する魚。日本人に魚食が合っているのには、こんな理由もある。

【弱点2】糖化しやすい

「人間の体の60パーセントは水でできている」というのは聞いたことがあるだろう。残り40パーセントの大部分はたんぱく質と脂肪で、それぞれ約20パーセントずつとみてよい。

60パーセント分もの水分が保てるのは、たんぱく質に水分を保有する性質があるためだ。ちなみに、生まれたての赤ちゃんの体は脂肪がほとんどなくて、水を保つことのできるたんぱく質なので、体の10パーセントがたんぱく質、90パーセントが水分で構成されているため、あのムチムチでプルプルの肉感なのだ。

水分を保有するたんぱく質に血液中のブドウ糖が結びつくと、糖化たんぱくとして固まってしまう。この現象を「糖化」という。これが進むと、体の水分が失われ、いわゆる「老け」が進行。さらに血管細胞のたんぱく

質が糖化すると、血管の老化も進行させてしまう。日本人はインスリンが分泌しにくく、血糖値が上がりやすいため、糖化が進行しやすい。

【弱点3】消化力が弱い

食べたものが口から食道を通り、胃や腸に入っても、まだ「消化」したことにはならない。それが体の中に吸収されて初めて消化したことになる。この消化を助けるため、それぞれの場所で唾液、胃液、腸液といった消化液が分泌され、食ベた物を細かく分解していくのだが、この消化液の分泌能力が日本人は低いのだ。その理由はL-カルニチンという栄養素の摂取が少ないため。詳しくは次のページで解説するが、消化液の分泌を促す役割を果たすこのL-カルニチンは、羊をはじめとした動物肉に多く含まれるため、日本人はこれまであまり摂取できないでいた。逆に動物肉をよく食べ、消化液を分泌して栄養素を体内に摂り込んできた人種は、たんぱく質からしっかりした筋肉をつくり、強靭な肉体を手に入れている。横綱や大関を輩出するモンゴル人や、ラグビー強豪のニュージーランド人がそのいい例なのだ。

【弱点4】咀嚼力が弱い

動物の歯は歴史的に食べてきたものに適した形状になっている。人間の歯には下図のような3つの種類があり、切歯は野菜や果物を切ったり、肉などを粗く噛む役目があり、犬歯は肉や魚を噛む役割、そして臼歯は穀類、穀類や豆類を磨り潰す役割をもっている。食べてきたものが歯の形状を決めたということであれば、この歯のバランスに合った食事が最もよい栄養バランスということになり、それが昭和30年から40年前半の日本人の食事だったという。この時代は平均寿命が大きく延びたうえ、生活習慣病が少ない理想的な状態だったといえる。

肉食が多い欧米人は歴史的に犬歯の使い方がうまいが、穀物が主食で肉食の経験が浅い日本人は犬歯で肉を上手に噛み切ったり、噛み砕くことができない。それに加え、現代日本人は仕事や遊びに少しでも時間を割こうと食事時間を短縮する人が少なくない。そこで、やわらかく、食べやすい肉類としてハンバーグや脂肪が多い牛肉などを好むようになったようだ。健康のためには「ひと口につき噛むのは30回」といっても、やわらかな食品や料理ばかりでは30回も噛んだら流動食のような状態にもなりかねない。噛む回数ではなく、食品選びを考えて「30回は噛める料理を食べる」というのが正解といえよう。

神戸大学医学部 客員教授神戸女子大学 客員教授株式会社シクロケム
代表取締役社長 工学博士 
寺尾 啓二さん

1986年、京都大学大学院工学研究科博士課程修了。ドイツのワッカーケミー社勤務を経て、2002年に化学工業薬品及び環状オリゴ糖の輸入販売、環状オリゴ糖を用いた商品開発及び販売を手掛ける株式会社シクロケムを設立。2012年4月に神戸大学医学部客員教授に就任。

内藤香苗=取材、文

本記事は雑誌料理王国278号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は278号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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