イタリアントップシェフが使う、輸入食材5選


海外での修業体験のあるシェフや、現地で責任あるポジションを任された経験をもつシェフたちは輸入食材に精通していて、それだけに「国産では代用できない」という思いも強い。
そんなトップシェフたちが好んで使い続ける輸入食材や調味料とは何か。意外にも多い共通項に輸入食材の魅力や価値だけでなく、日本の食材の「今」が見えてくる。

三ツ星店の感動の味を、同じ食材で伝え続ける
リストランテ濱﨑 濱﨑龍一さん 

粒の大きさは国産米に近い「ヴィアローネナーノ米」

「まず、リゾット用のお米を国産米で代用することはありません」。濱﨑シェフが注文するのは、イタリア産のヴィアローネナーノ米。少し小ぶりで丸みを帯びた米を、アルデンテに仕上げたひと皿。その食感は抜群なのだ。これはイタリア北西部のロンバルディア州、マントヴァにある三ツ星店「ダル・ペスカトーレ」で修業していた時から慣れ親しんできた食材だ。「それと、ドライポルチーニも、やはりイタリア産に限ります。とても大きくて見た目も美しく、香りもすばらしいんです」。これを煮込みの下味に使ったり、パウダーにして食材にふりかけたりして使う。このほか、調味料として欠かせないものに、「オレンジオイル」がある。フレーバーがほしい時には、柑橘系の香りを使うというシェフが、カラブリア産のオレンジを原料とするこのオイルと出会ったのは3年ほど前。以後、ウイキョウのサラダや魚のマリネには欠かせないオイルとなっている。

Ryuichi Hamasaki
1988年に渡伊し、「ダル・ペスカトーレ」などで修業を積む。1989年に帰国後、「リストランテ山﨑」のシェフを経て、2001年、「リストランテ濱﨑」をオープン。

高級食材こそ海外から本物を仕入れる
ピアットスズキ 鈴木弥平さん

北スペイン沖で捕れたカタクチイワシが原料のアンチョビのフィレ。

高級食材の中でも、とくに黒トリュフなどは仕入れ値が張る。しかしそういうものこそきちんとしたものを入手すべきだ、と鈴木シェフ。香りのないトリュフに、トリュフオイルをかけて提供する店もあると聞くが、それではトリュフを使う意味がない。店では季節によって、フランス産やオーストラリア産を使い分けている。そのほか、イタリアンのシェフとして「イタリア産でなければ」という食材にポルチーニがある。フレッシュな状態で届くので、ローストして提供することが多いが、パスタやリゾットの具として使ったり、ソースに使ったりと、その使い道は広い。また、食材にも調味料にもなるというものに、「アンチョビフィレ」がある。「フレッシュ感をそのまま活かすなら食材として使ったほうがいいでしょう。私はこれを塩代わりや隠し味としても使っています」。塩とは違った複雑な味わいで、料理をより奥深いものにしてくれるそうだ。

Yahei Suzuki
1967年、茨城県生まれ。麻布十番の「クチーナ・ヒラタ」で修業後、92年に渡伊。帰国後「ヴィノ・ヒラタ」を経て、2002年に「ピアット スズキ」をオープン。

コクや深み、香りを求めると輸入食材に行き着く
リストランテホンダ 本多哲也さん

シェフたちにとって、トリュフは、不可欠の輸入食材だ。

ウグの冬トリュフ

イタリアとフランスで修業を積み、イタリア料理店を経営する本多さん。イタリア食材はもちろんだが、フランス産を使うことも多い。国産では物足りないと感じる食材に、トリュフや鴨などがある。シェフが気に入っている鴨は「ビュルゴー家のバトー・ド・カナール・シャランデ」。コクや深み、香りなど、すべての面で申し分ない。このフランス産の鴨には赤ワインソースを合わせたり、梅のモスタルダを添えたりして、季節によってアレンジしている。ただし、さっぱりした鴨料理を出したいという夏場には、国産の鴨を選ぶ場合もある。「豚肉も同様に輸入物がよく、希少価値の高いキントア豚は、味に深みがあり、肉質が繊細、脂に甘みもあって非常においしい。こういう豚肉は国産にはないですね。業者に頼んで骨付きのまま熟成させてから持ってきてもらっています」。

ウグの冬トリュフ
㈱鳥新 1kg 200000円(税抜)

ピエールオテイザのキントア豚リブロース
㈱鳥新 1kg 6000円(税抜)

ビュルゴー家のバトー・ド・ カナール・シャランデ
㈱鳥新 1kg 6800円(税抜)

Tetsuya Honda
1968年、神奈川県生まれ。97年に渡伊・渡仏して修業を積む。帰国後、「リストランテ・アルポルト」の副料理長を経て、2004年、「リストランテ ホンダ」で独立。

基本となる塩やオイルはシチリア産に限定
トラットリアシチリアーナ・ドンチッチョ 石川勉さん

ソサルト社の塩には細粒と粗粒があり、石川シェフは細粒を使用。

ソサルト社“モツィア” サーレ・ インテグラーレ・フィーノ(細粒)

「うちの場合はシチリア料理が中心だから、食材や調味料を選ぶ基準は、はっきりしています」と石川シェフ。だが、シチリアの風土を感じさせるものを選ぶのがなかなか難しい。たとえば、ウイキョウ、アーティチョーク、ズッキーニなど、日本でもイタリア野菜を栽培する農家が増えてきた。とはいえ味の濃さ、風味が違う。「使っている輸入食材や調味料はいろいろありますが、一番の基本はだと思います」。もっとも使う頻度の高い塩だからこそ、シチリア産でなければならない。また、5種類ほどを使い分けるオリーブオイルもシチリア産。たとえば「デメートラ社エクストラヴァージンオリーブオイル」は、フルーティーな風味を活かして前菜やサラダの仕上げなどに使う。やや香りが強い「プラネタ エクストラヴァージン オリーブオイル」は肉料理との相性がよい。

Tsutomu Ishikawa
1984年に渡伊し、シチリア、フィレンツェ、ボローニャで修業を積む。「クッチーナヒラタ」等を経て、2000年に独立。06年に「ドンチッチョ」を開店。

イタリアの食材を使うことで伝統的製法を守る
リストランテイ・ルンガ 堀江純一郎さん

ムリーノマリーノ社の小麦粉には保存料は一切使われていない。

味や品質のよさ、安全性を追求するだけでなく、「イタリアの伝統的な技術を守りたい」との思いから、堀江さんは輸入食材を使い続ける。ことにこだわっているのが、「ムリーノマリーノ社の硬質小麦デュラムセモリナ粉」。ムリーノマリーノ社は、オーガニック栽培された麦を石臼でゆっくり時間をかけて挽くという昔ながらの製法を守り、小麦本来の味わいを伝えている。また、無農薬の八列トウモロコシを使ったポレンタ粉もお菓子作りには欠かせない。「利便性最優先の考え方では、本当においしいものが消えていく」。輸入を続ける理由には、本物に1票を投じたいという気持ちがあるからだ「。伝統の味を守るには、代用してはいけないものもある」とも言う。だから、ピエモンテの煮込み料理に欠かせないアンチョビやケイパーも、イタリア産を使っている。

Junichiro Horie
1971年、東京生まれ。 96年渡伊。トスカーナ、ピエモンテ州を中心に修業し、「リストランテ ピステルナ」でシェフに。2005年に帰国し、 09年「リストランテ イ・ルンガ」をオープン。


本記事は雑誌料理王国第229号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第229号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


SNSでフォローする