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「今行きたい、フレンチビストロ10名店」『北島亭』


四谷にある「北島亭」といえば、東京のフランス料理シーンを牽引してきた一軒だ。キャリア50余年の北島シェフのモットーは〝素材の声を聞くこと〞。日課としている市場通いで目利きとなり、仲卸の信頼も厚い。素材のよさを最大限に活かすべく、その卓越した技で今日も厨房に立つ。

 「今が一番楽しい」。取材中、北島素幸シェフは何度も繰り返した。 新型コロナウイルスの影響を受けて打撃を受けたのは、「北島亭」も例外ではない。昨春の緊急事態宣言にお客が訪ねてこない日もあった。一方で、大変な時だからこそとやって来たり心配したりしてくれるお客も多かったという。 

それは北島シェフが、料理人として50年以上にわたり、しっかり料理や素材と向き合い、そしてその向こうにいるお客とも真摯に触れてきたからだ。 料理に向かう姿勢は変わらないものの、以前は品数に合わせて値段を変えたコースをいくつか用意していたが、コロナ以降はランチ10,000円、ディナー12,000円のみにしている。

それは効率がいいから、ではない。コロナによる営業時間短縮は客数、ひいては皿数が減ることを意味する。あれやこれや準備してもテーブルに登場しないとなると、もったいない。素材を無駄にしたくない思いから、ロスをできる限り少なくできる設定に舵を切った結果なのである。

ピレネー産乳飲み仔羊のロースト

バターと塩を強めにふって、シンプルに仕上げた一品。パリッと香ばしく焼き上がった皮、ナイフを入れると、乳飲み仔羊ならではの甘くやわらかい香りが広がる。繊細でジューシーな味わいの仔羊が存分に味わえる。肉の旨みを吸ったジャガイモ、パールオニオン、マッシュルームも美味。さやいんげんが季節感を添え、皿の中で挿し色となる。



食材を慈しむ気持ちは今も同じ。吟味して選び、確かな技で料理に仕上げる。 北島シェフといえば、築地通いで知られる。朝早く店を出て、魚介類、野菜、果物を見て回っていた。市場が豊洲に移ってからもその習慣は変わらない。ただ、現在は仕入れる量を抑えているので、毎日、ではない。すっかり馴染みである北島シェフは、行くと「いいものがあるよ」と声をかけられるが、「大変な状況なのは市場の人たちも同じ。仕入れたいのはやまやまだけれど、全部買うわけにいかないのが辛いね」と苦笑する。 


無駄をできるだけ出さないのは、光熱費なども同様だ。ゆで汁は厨房の清掃に使う。発砲スチロールに氷を入れて魚や肉を保管し、冷蔵代を抑える。「その分をお客さんに還元したいじゃない」とその理由を語る。そこにあるのはお客の喜ぶ顔なのだ。 厨房設備もできるだけ無駄を省き、工夫を凝らしている。その際たるものが、肉のローストにオーブンを使わないことだろう。

フライパンとサラマンドルを駆使して、肉をローストする。冷たいフライパンで肉を焼き、サラマンドルに入れたり外したりしながら、肉の香りを逃さないように火を入れる。その作業は手間がかかるし、経験値がモノをいうが、根底にあるのはやはり素材を大切に思う気持ちだ。

「今がいちばん楽しい」のは、大変なときだからこそ、訪ねてくれるお客への感謝への表れなのは言うまでもない。そして、制約が増えた中で、これまでの知識や経験をフル回転させ、ますます料理に真剣に向かっているからでもある。昔出していた料理にも再び挑戦したいと意欲を燃やす。

ARCHIVED COLUMN
「とびきりの素材を入手してお客さまを笑顔にしたい」


日課は築地通い。買い出しに行くこと、2008年の時点で25年。魚、甲殻類、貝類、野菜、果物の順に店を回る。仲卸からも目利きとの評判も高い北島シェフは、やりとりをしながら、目で見て、実際に触って状態を確認して魚を選ぶ。品質をチェックしたら、あとは、値段と量。
個人店ゆえ大量に仕入れることはできない。いくらモノがよくても高ければ、その分料理の値段に反映させることになるからだ。築地が豊洲に移った今も市場通いは続いている。

text: Noriko Hane photo: Yoshiko Yoda


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