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女性シェフがクリエイトする、ロンドンらしい極上中東モダン

ロンドンの外食産業を知り尽くす現地在住ライターが、今一番元気のいいジャンル、モダントルコ料理の新レストランを訪ねた。トルコ料理店が飽和状態にあるロンドンで、食通に歓迎されているニューフェイスだ。

ロンドンの外食産業を知り尽くす現地在住ライターが、今一番元気のいいジャンル、モダントルコ料理の新レストランを訪ねた。トルコ料理店が飽和状態にあるロンドンで、食通に歓迎されているニューフェイスだ。

ロンドンの繁華街に昨年誕生したモダントルコ料理の「Zahter / ザタール」は、ボスポラス海峡の水色を思わせる深い藍に塗られていた。ヴィクトリア朝時代の古い建物を利用した、とてもハンサムなレストランだ。主はイスタンブール出身のシェフ、エズラ・メスルさん。オープン前はインテリアや調理器具まで自らの希望で手配し、なんと全てをトルコから取り寄せ、好みのスタイルにまとめ上げたのだという。

エズラさんの経歴を見ると、世界の食を一望できる移民の街、ロンドンで活躍しているシェフらしいカラフルな彩りがある。現在のロンドンの食を定義するような「折衷料理」を確立した立役者の一人に、イスラエルとイタリアの食文化を融合して大成功を収めたヨタム・オットレンギ氏がいるが、エズラさんはオットレンギ氏による本格レストランのヘッドシェフとして活躍した後、今をときめく別のトップレストランを率いてさらに注目された。腕とセンスを買われる料理人なのだ。

女性シェフがクリエイトする、ロンドンらしい極上中東モダン
女性シェフがクリエイトする、ロンドンらしい極上中東モダン
ロンドン中心部Sohoの一画、若い世代に人気のカーナビー地区に昨年末にオープンしたZahter。中東諸国で使われる独自のスパイス、ザタールを店の名前に。

「学校に行くため最初は18歳でロンドンに来たの。そのとき下宿していた家のイギリス人大家さんが、私に料理の楽しさを教えてくれたのよ」と、朝食イベントの席で大勢のジャーナリストを前に過去を振り返る。プロになる勉強をしたのはメルボルンだ。イスタンブールに戻って複数のレストランを成功させた後、縁のあるロンドンに戻って現在の地位を築き上げた。世界の美食マップを辿っているようでもある。

筆者は中東や地中海沿岸諸国が育ててきたシンプルで飽きのこない料理が好きで、ロンドンでも好んでトルコやギリシャ、キプロス、イスラエル、レバノンと言った各国レストランに頻繁に出入りしている。伝統を重視する店、モダンなひねりを効かせた店、その両方が今のロンドンには混在している。大好きなイスタンブールには何度も足を運び、現地料理にも親しんできた。そんな私でも、このZahterではこれまで経験したことのない食体験が待っていた。

女性シェフがクリエイトする、ロンドンらしい極上中東モダン
女性シェフがクリエイトする、ロンドンらしい極上中東モダン
女性シェフがクリエイトする、ロンドンらしい極上中東モダン
一番上がアーティチョークとライスの一品。中央は左上から時計回りに穀類のピーマン詰め、ラム肉のキョフテ、ナスのグリル、スズキのカルパッチョ仕立て。下はデザートのバクラヴァ。全てが完璧。

例えばアーティチョークにハーブやスパイスで風味付けしたコメを詰めて火を入れる「エンギナル・ドルマス」と呼ばれる料理。現地では春から夏にかけてシーズンを迎えるアーティチョークをいただくための旬の皿で、エズラさんのレシピはライスを甘辛くしているところが日本人の舌に合う。アーティチョークのガクを歯でしごきながらライスと一緒に食べると口いっぱいにディルの香りが広がり、アーティチョーク自体が持つ栗のような甘さも手伝ってクセになる美味しさ。これまでどのレストランでも体験したことのない味だった。

もう一つ試していただきたいのは、トルコ風の朝食。日本の昔ながらの朝ごはんに負けず劣らず品数が多い。伝統的にはトマトとキュウリのサラダ、数種のチーズやヨーグルトなどの乳製品とはちみつ、シンプルなパンで構成されるのだが、Zahterではほぼ全てが自家製で洗練されており、クラフトマンシップが感じられる精鋭揃いだ。

エズラさんの料理には色彩があり、艶がある。味は繊細そのもの。食べたことのない料理でも「こうあるべき」というバランスを決して外してこない。中東モダン流行りのロンドンでまさに旬のど真ん中を突いたレストランだと言えるが、決してトレンドに踊らされているわけではない。たとえ店がなくなったとしても、エズラさん自身の料理は引き続きどこかで食べられることだろう。

Zahter
https://zahter.co.uk

トルコ風のブレックファスト。最高レベル!
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text・photo:Mayu Ekuni 協力:英国政府観光庁

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