東京・恵比寿「ル・コック」の比留間光弘さんは、「中勢以」の牛肉だけでなく豚肉にも注目するシェフのひとりだ。「この豚肉は豚特有のにおいがまったくない。というより、熟成されたその芳香にびっくりしました。肉質はきめが細やかでやわらかく、適度に水分が抜けているので味が濃い。それでいて、加熱中でもしっかりと水分を保つ力のある肉なのか、焼き上がりがとてもジューシーなの
です」と説明する。こうした特長の中でも、比留間さんがもっとも惚れ込んでいるのが、サラッとしていてベタつかず、あっさりした後味の脂身の旨さだ。今回紹介する骨付きロースのローストは、この脂身のおいしさを前面に打ち出したもの。
「脂身のおいしさは、いかにしっかり火を通しているかがカギ。焼きがあまく、生っぽいと生ぐさみが残ったり、口の中に脂分が残っておいしくない。脂身の表面にしっかりと焼けた層ができるまで焼き込むことが大切」と比留間さんは丁寧に説明してくれた。
しっかり火を通すためのポイントは3点。まず、今回は450gを使用したが、肉はある程度の塊で焼くこと。薄いと肉の部分にも火が通りやすく、脂身だけをしっかりと焼き込みにくいからだ。次に、脂身は必要以上にカットせず、分厚く残して焼くこと。脂身がクッションの役割を果たして、肉の中心部にやわらかく火が入ると同時に、溶けた脂でアロゼしながら焼いて、旨味を閉じ込める。3つ目は厚手のフライパンとサラマンダーを併用して、分厚い脂身にしっかり火を通して余分な脂を充分に落とすこと。最初はフライパンで脂身の表面を焼いて、ざっと余分な脂を落とす。じっくり時間をかけて焼くので、火の当たりがやわらかく焦げにくい厚手のフライパンを使う。次にサラマンダーで全体に火を入れ、残った脂をじわじわと絞り出していく。
「フライパンでは、骨の部分が浮いて火が通りにくい。そのうえ、フライパンだけで焼き上げようとすると、脂が落ちきる前に、火が入りすぎてしまう。だからサラマンダーを併用するのです。サラマンダーは片側から焼くので、火の入り具合がちょうどよく、炙り焼きするので脂身の表面がパリッとなり、香ばしく焼き上がります」ただ、保水力がある熟成肉だが、熟成した分、ある程度は水分が抜けているため、火の通し過ぎには注意する。火入れが強すぎると硬くなってしまうのだ。仕上がりは表面に厚さ1〜2㎜のパリッとした焼いた層ができ「指先で触って弾力があり、芯のほうにはハリのある感じ」で見極める。
今回は、爽やかなハーブ系のソースを合わせたが、酸味の利いたキリッとしたソースも相性がいい。ただ、肉自体に旨味があるので濃厚なソースは避け、あくまでもシンプルな味付けに仕上げるのが肝心だ。
比留間さんが脂身の旨さに惚れ込む、南の島豚のロース。「口の中でさっと溶ける後味のよさは、他の豚肉の脂に比べて融点が低いんだと思います。もっとも科学的根拠はないんだけど」と笑う。
フライパンとサラマンダーを併用して、分厚い脂身にじっくりと火を通し、余分な脂を落とす。脂身の表面に1~2mmのカリッとした層ができるまで焼き込むのがポイントだ。
焼いた層ができるまでパリッと香ばしく焼き上げた脂身は、豚肉とは思えない軽やかな後口。赤身もやわらかく、濃厚な味わいだがジューシー。同じ南の島豚の肉を使った自家製チョリソー入りのニョッキ、バスク豚のラルドと3 種類の豚肉のハーモニーが楽しめる。
● 材料(2人分)
豚ロース 450g アスパラガス 2本 バスク豚のラルド 2枚
自家製ニョッキ 2本 * パセリのソース 適量 **
塩、コショウ 各適量 揚げ油 適量
1 豚ロースは脂身を分厚く残して塊で切り出し、全体に塩、コショウをふる。途中、脂が落ちるので脂身は強めに塩をふる。
2 厚手のフライパンに脂身を手で押しつけるようにして焼き、余分な脂を落とす。途中、焼き面を替えて、全面まんべんなく火を通す。
3 表面に焼き色がついたら、サラマンダーでじっくり火を通す。途中、焼き面を替えて、全面まんべんなく火を通す。
4 脂身の表面に厚さ1~2mmの皮ができたら、焼き上がり。
5 4を半分にスライスして皿に盛り、塩ゆでしたアスパラガス、その上にラルド、さらに油で揚げたニョッキを添えて、ソースを流す。
*自家製ニョッキ
塩ゆでして裏漉したジャガイモ、シュー生地、細かくきざんだ自家製チョリソーを混ぜ合わせ、細長い棒状にしたもの。
★自家製チョリソーは、南の島豚の肩肉、モモ肉、バラ肉をミンチにし、塩、コショウ、ピメント、パプリカフュメ(パプリカをスモーク後、乾燥させて粉末にしたもの)と混ぜ合わせて、腸詰めにする。1カ月半ほど冷蔵庫に吊して乾燥させる。
** パセリのソース
エシャロット、皮付きのまま湯がいて皮をむいたニンニク、バターをアルミホイルで包んでオーブンで焼き、生クリーム、クレームドゥーブルと合わせてミキサーにかける。湯がいてミキサーにかけたパセリを合わせて、塩、コショウで味をととのえる。
1963年東京都生まれ。82年渡仏し、「ギ・サヴォア」や「ジャマン」などで8年間修業。帰国後、恵比寿の「Q.E.D.CLUB」を経て、97年に用賀に「ル・コック」をオープン。2008年5月、恵比寿に移転。
ル・コック
東京都渋谷区恵比寿西2-7-2 ウインズビル1F
● Phone 03-3770-1915
● 12:00~13:00 LO(前日までの予約のみ)
18:00~22:00 LO
● 火曜休
● ランチ3150円~、ディナー8400円
北村美香=構成/清水敏江=文/上原ゆふ子=写真
本記事は雑誌料理王国181号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は181号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。