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グランシェフが考える…僕がビストロを開くなら ル・マンジュ・トゥー 谷昇さん


「もしも、あなたがビストロを開くなら?」グランメゾンのシェフとして腕をふるう「ル・マンジュ・トゥー」のオーナーシェフ谷昇さんに、そんな仮想の店を考えていただいた。果たしてレストランと何が違って、どんな店を理想とするのだろうか?

ビストロとレストランの境界線とは?

“料理人とお客さまの距離、あるいは、立ち位置や目線の違い”

お客と店が一体になって、〝食事の場〞をともに楽しむ場所

僕がビストロを開くなら、ビストロ=安い、という図式から、まず離れます。価格を抑えることから始めてしまうと、料理にも限界ができてしまうし、お客さまが求めるもののレベルが下がってしまいます。たしかに、フランスのビストロも、レストランより安いですよ。フロア係の接客もカジュアルな雰囲気で、お客もとくに正装しているわけでもありません。ただ、けっしてチープには感じない。そこがポイントだと思います。

じゃあ、何が違うのかというと、お客さまとスタッフが一体になって、今この時にしかない食事の場を楽しもうとしていること。食事と会話を楽しみたいというお客さまと、いい仕事をしてお客を喜ばせたいと考えるスタッフの気持ちがひとつになっている。

実際、パリの14区にある「レガラード」に行ったときは、店にあふれる活気に驚かされました。しかも、シェフが仕事を終えて店に出てくると、お客が拍手で迎えるんです。一流のシェフのはずなのに、お客との距離感がすごく近いように感じました。

そうした雰囲気を感じてほしいので、料理は、テーブルで切り分けたり、手づかみで食べたりするような、お客さまが参加できるスタイルがいいように思います。前菜、メイン、デザートの3皿構成なら、テンポもいいですし、ガッと食べられる。ワインに関しては、こだわらなくてもいいですが、時代の要請としてビオが主体になるでしょうね。

店は、本当は、海の見える場所がいいんですよ。海が好きなので。ただ、そうすると、魚介料理のイメージが強くなってしまうから、緑に囲まれた場所がいいです。木漏れ日があって、風が感じられるようなオープンな店にできたらいいですね。お客さまもスタッフもリラックスできる環境が理想です。

フランス語に「convivialité(コンビビアリテ)」という言葉があります。本来の意味とはニュアンスが違うかもしれませんが、僕は「ともに生きている喜びを分かち合う」という意味で、ビストロのあり方を表現しているように感じます。もっと自分が経験を積んで、60歳を過ぎたころに、ともに歩んできたお客さまと一緒に「食事の場」を楽しめる、そんなビストロを開けたらいいですね。

谷さんが“もし、ビストロを開くなら”

1.立地は?……緑が多い場所
緑が多く、木漏れ日のある場所。理想は、東京なら日比谷公園の中、あるいは海の近く。

2.昼と夜の価格帯は?……1人8000円
昼も夜も価格は同じ。安売りがビストロではないし、理解あるお客さまに来てほしいから。

3.料理は?……お客参加型の料理
テーブルでお客が切り分け、手を使って食べていただく。お客さまも参加して楽しめる料理。

4.内装は?……オープンで掃除しやすい店
オープンテラスがあって風が感じられる店。かつ清潔に保てるように掃除しやすい造作。

5.スタッフは?……6~7人は必要
厨房でもチームでの仕事を楽しめるだけの人数で、しかもスキルは高いことが条件。

谷さんだったら、こんな料理に!
夜のコース料理8000円(4人で訪れた場合のひとり当たりの料金)なら

前菜 フォワグラのロースト

フォワグラを塊のままローストし、ダイナミックに盛り付けた。ガルニチュールには、焼きっぱなしのパプリカを添えて。お客に手で黒こげの皮をむきながら食べてもらう。

メイン ウサギのエトゥフェ

大ぶりにさばいた2羽のラパンを、皮付きのニンニクと水だけで蒸し煮にした。仕上げにブール・ノワゼットをかけてリッチな風味に。手づかみでダイナミックに食べるひと皿。

前菜 イチジクのタルト

タルト生地の上に新鮮なイチジクをのせ、砂糖をふってシンプルに焼き上げたデザート。熱々のタルトに冷たいバニラアイスクリームをのせ、フリュイ・ルージュのソースを飾る。

大掛達也 – 文、菊地和男 – 写真

本記事は雑誌料理王国2008年12月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2008年12月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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