<大分県> 生産者の挑戦と研究が生み出したトップクオリティ

海にも山にも恵まれた自然を持ち、豊かな食文化を育んできた大分県。今回はその中でも大分が誇る、ぶり、和牛、お茶という3つの生産者を、和の料理人「恵比寿 笹岡」の笹岡隆次さんと訪ねた。

海にも山にも恵まれた自然を持ち、豊かな食文化を育んできた大分県。今回はその中でも大分が誇る、ぶり、和牛、お茶という3つの生産者を、和の料理人「恵比寿 笹岡」の笹岡隆次さんと訪ねた。

臼杵湾に浮かぶか『かぼすぶり』の養殖場。水温の低いきれいな海で育つから身がしまる。
臼杵湾に浮かぶか『かぼすぶり』の養殖場。水温の低いきれいな海で育つから身がしまる。

大分の食文化に欠かせない、
かぼすを食べて育つぶり

【かぼすぶり】

かぼすを食べて育つ『かぼすぶり』は、ほんのり柑橘の香りをまとったブリとして全国的にも知名度が高い。東を豊後水道に面した臼杵湾は水温が低く、そこでゆっくりと成長するブリは身がしまってよい肉質になるという。

平成22年、かぼすの果汁やパウダーをブリに与えるとよい影響があるという研究結果が発表され、大分県内で試験的に取り組む養殖業者の募集があった。これに参加したのが重宝水産の佐々木兼照さんだった。

朝早くから養殖場に漁船で向かう。
朝早くから養殖場に漁船で向かう。

『かぼすぶり』は餌にかぼすの皮を粉末にしたものを加えるが、それをいつどの程度与えるかは未知の世界であった。そこで佐々木さんは研究者と共に長い間の試行錯誤を繰り返し、ベストと思うクオリティにたどりついたという。現在は代表を退いた佐々木さんに代わって、大分みらい水産が志を継いでいる。

今回の案内人・大分みらい水産の秋月さん。
今回の案内人・大分みらい水産の秋月さん。

『かぼすぶり』の特徴は、脂がのっているがさっぱりしていること。
「脂の成分を調べてみると、自然界の魚にはないリモネンという成分があって、これが脂に多く含まれているんですよ」というのは、大分みらい水産の秋月良太さんだ。
また柑橘に含まれるポリフェノールが、血合いの酸化を防ぐため臭みも出にくいという。

「ブリはすぐに血合いの色が悪くなりますが、『かぼすぶり』は時間がたっても色が鮮やかです」と笹岡さん。店で使う時は、刺身も美味しいが、脂がさっぱりしているのでしゃぶしゃぶにしても喜ばれるという。
「塩をサッとふってカマを焼くとほんのりとかぼすの香りがするんですよ」というのは秋月さんだ。
“味よし(脂がしつこくなく、さっぱりとしている)、香りよし(魚臭さが少なく、ほのかにカボス香りも)、見た目よし(切り身の色変わりが遅く、身の色が美しい)”と大分県が自慢する『かぼすぶり』の料理への可能性は広がっている。

親子2世代に渡って、
農薬を使わないお茶を作り続ける

澄んだ空気の山間にお茶の爽やかな香りが広がる。
澄んだ空気の山間にお茶の爽やかな香りが広がる。

大分県臼杵市野津町ののどかな丘陵に茶畑が広がる高橋製茶。難しいと言われたお茶の無農薬栽培に1990年代から取り組み、2001年に大分県で初の有機JAS認証を取得した。美しい茶畑の風景は、俳優の陣内孝則さんなどが出演した映画『種をまく旅人』の舞台にもなっている。そんな高橋製茶は笹岡さんも旧知の仲だが、今回初めて茶畑を訪れたという。

お話を聞いた高橋ケサゑさん。
お話を聞いた高橋ケサヱさん。

「最初はこの辺りだけでしたが、お父さんと2人でお茶の木を植えて段々と大きくしていきました」。
どこまでも続く広いお茶畑を眺めながら、高橋ケサヱさんは苦労した時代を振り返る。
無農薬に取り組むきっかけとなったのは、ご主人の高橋英雄さんが作業中に謝って農薬を被ってしまったことにあった。農薬の影響で体調を崩した高橋さんは、「たくさんの人が口にするお茶にこんなものを掛けていたのか」と愕然とする。そこから農薬の使用をキッパリとやめたという。

茶園を案内してもらう笹岡さん。
茶園を案内してもらう笹岡さん。

当時は、お茶の無農薬栽培は不可能とさえ言われていた時代でもあった。農薬を止めた茶畑はお茶の葉が虫に食い荒らされ、収穫もままならないほどに荒れていった。周囲の生産者からもやめるように言われたが、それでも高橋さんは耐え続けた。そうこうするうちに変化が始まる。土の中の微生物が働くようになり、お茶の木が強くなっていったのだ。3年目に入ると、農薬をまかなくとも自然と虫に食い荒らされることが無くなった。

お茶の木は油かすや魚かすなどの有機肥料ですくすくと育っている。
お茶の木は油かすや魚かすなどの有機肥料ですくすくと育っている。

髙橋茶園があるのは、臼杵市の標高200m弱の山間。朝晩の寒暖差が大きく、朝には霧が降りる土地はまろやかなお茶を生むという。どこからも農薬が飛散する心配のない隔絶されたエリアで、有機栽培に恵まれた条件を備えている。後を継いだ息子さんと2代に渡りおよそ30年も有機栽培を続ける茶園は日本でも稀有な存在だ。畑を見晴らすティーサロンも建築中で、2023年春には完成予定という。茶畑を眺めながらゆったりお茶が飲める環境が整いつつある。

海外も視野に入れてより良い和牛を育てる

笹岡さん(右から2人目)とお話を伺った大分畜産公社の方々
笹岡さん(右から2人目)とお話を伺った大分畜産公社の方々

大分県内唯一の食肉処理施設がある大分畜産公社を訪ねた。こちらでは日本国内だけでなく、海外へも「おおいた和牛」を出荷しているため、厳しい国際基準を満たす管理が徹底されている。
和牛はアメリカだけでなく、タイ、マカオ、ベトナム、ミャンマー、台湾など、アジア諸国にも輸出され、海外でも幅広く食べられるようになってきた。そこで海外にアピールするための計画も進んでいるのだ。

和牛の特徴のひとつは、海外の牛肉にはない独特の和牛香といわれる。和牛香には個体差があるが、その理由が血統によるものなのか、飼料由来なのかなど、まだ詳細は解明されていない。そこで和牛香を研究することで、海外でよりアピールする和牛を育てようという試みが行われている。
また様々な部位を、それぞれに合った調理法で食べるのも和牛の魅力のひとつ。しかし、海外では使いやす部位ばかりが求められるという。そこで一頭を丸ごと使ってもらえるように、実際に海外にスタッフを派遣し、試食会や調理法のセミナーを行っている。

また、大分県は干し椎茸の生産量が全国一位だ。そこで椎茸生産者も多いが、和牛を育て、その堆肥を椎茸栽培に使うクヌギの木の肥料として与えているという。こうした椎茸栽培との循環型の生産者がいるのも大分県のユニークな特徴だ。

text:岡本ジュン photo:富貴塚悠太

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