トップシェフのハーブの使い方 パスカルシャルデラさん


インスピレーションと経験によって新たな素材を独自の皿に昇華する

パスカルシャルデラさん
ペストリーブティック

幼い頃から培った食経験と独自の感性で日本に挑む

「料理好きの家庭で、いつも手作りのお菓子に囲まれて育ちました。シナモンクッキーやパンデピスなど、子どもの頃からスパイスもハーブも身近な存在でしたね」

 フランス北東部に位置するモゼルで生まれ育ったパスカルシャルデラさんにとって、スパイスもハーブも慣れ親しんできたものだった。キッチンにはチリペッパー、ナツメグ、アニスなどの多種類のスパイスが常備され、庭ではパセリ、ミント、ラベンダー、ローズマリーなど種類以上のハーブが栽培されていた。

「食卓に並ぶ料理では、ピストゥーが大好きでした。オリーブオイル、ガーリック、バジルから作るソースで、野菜スープなどに加えていただきます。発祥は南仏プロヴァンスともイタリアともいわれ、家庭ごとに個性が出るおもしろいメニューです」

 そんなパスカルさんが、2015年7月より「ペストリーブティックパークハイアット東京」エグゼクティブペストリーシェフに就任。昨年のクリスマスケーキでは、ガトーノネットやパンデピスなどの巧みなスパイス使いと優美なデザインが絶賛された。幼い頃から自然に積み重ねた食体験に、シェフとしての技や知識を加えて生み出されるスイーツは、懐かしさと洗練をあわせ持つ。

宮崎産マンゴー 山椒のシロップ 木の芽とライムのシャーベット メレンゲのスティック

2等分にカットしたマンゴーを木の芽のシロップとともに真空パックにすることで、形はそのままに風味を移している。そのマンゴーをサイコロ状にカットしたものとソースに仕立てたものをダブル使い。マンゴープリンの底には、アーモンドパウダーなどで作ったサブレ生地を敷き、表面はマンゴーソースでコーティング。木の芽は、砂糖をまとったトッピングのほか、フードプロセッサーで作った泡、シャーベットにも使用している。

姿は見えないが、シロップからはしっかりと木の芽が香る

鍋に山椒、砂糖、水を投入して火にかけ、山椒シロップを作り、それをマンゴーと一緒に真空パックに入れて風味を移す。
木の芽の表面に卵白を塗り、砂糖をまぶして48時間自然乾燥させる。色合いを保つためオーブンは使用しない。
一般的に生の木の芽は4~5月、山椒の実は6月と旬が非常に短い。

多用せず、相性にこだわって相乗効果を狙うのがセオリー

 韓国のホテルなどアジア圏での経験はあるものの、日本は初めて。フルーツの質の高さや初めて出合う食材に驚いたという。なかでも、同ホテル内の日本料理「梢」で提供された木の芽のグラニテに感動を覚えた。「コリアンダーやライムのような印象を受け、ぜひデザートに使ってみたいと思いました。調べると、山椒の実も同じ植物であることを知り、より興味がわきましたね」

「宮崎産マンゴー山椒のシロップ木の芽とライムのシャーベットメレンゲのスティック」は、山椒の実と木の芽の魅力を同時に表現したひと皿。マンゴーに山椒の風味を移す際、コンポートにすると型崩れするため、山椒のシロップとともに真空パックにして寝かす。山椒の実の姿は見えないが、その風味はカットされたマンゴーやソースを口にすると、豊かな余韻で感じることができる。

パスカルシェフは、皿の上で素材を使い過ぎることを好まない。それはスパイスやハーブも同様のこと。組み合わせ方にこだわりを持ち、似た印象を受けた素材や、その逆に相反する素材が重なる相乗効果によって感動的な味わいを生み出していく。山椒に対して、ライムはそれに近い爽やかな刺激があり、マンゴーは対照的に南国のフルーツ特有の甘味とコクがある。夏らしく華やかに飾り付けられた皿の上の要素が、味覚においても美しい統一感を成している。「スパイスは味に複雑さや深みを出す役割を、ハーブはフレグランスの働きを担うことで、主役となる素材を引き立てます。あくまで脇役に徹することが重要です」

「パンデピスのフレンチトースト大石プラムのキャラメリゼ蜂蜜とオレンジのアイスクリーム」は、古典的なパンデピスを、フレンチトーストに仕立て、鮮やかなデコレーションを施すことで、新鮮な印象を与えてくれる。パンデピスの7種のスパイスと、プラムソースに使用するバニラの香りのバランスが、複雑でありながら実に妙。

伝統を大切にしながら、独自の感性や自由な発想によって完成するデザートの数々。今後、パスカルさんが出合う新たな素材によって誕生する作品に期待が高まる。

パンデピスのフレンチトースト 大石プラムのキャラメリゼ
蜂蜜とオレンジのアイスクリーム

パウンドケーキの型で焼き上げたパンデピスを円形にくり抜き、オレンジの皮のすりおろしが入ったフレンチトーストの液に浸して焼き上げている。プラム、赤ワイン、蜂蜜などを煮詰めたソースには、バニラスティックと中から取り出したビーンズを投入して香り付けを。添えている熊本県産の大石プラムは、表面にブラウンシュガーをのせて香ばしく炙ったもの。オレンジとプラムにより、より一体感あるひと皿を演出している。

生地をきめ細やかにするために入れる前にミックススパイスにする

パンデピスの生地を作る際は生地をきめ細やかに混ぜ合わせるため、先にスパイスをミックスして、数回に分けて加える。
マイルドで甘く豊かな香りのバニラを使用。バニラスティックは鞘、中の種をともに入れて香りを引き出す。

Pascal Cialdella
フランス出身。13歳から本格的に製菓の道を志し、15歳でMOF(Meilleur Ouvrier de France国家最優秀職人賞)ファイナリストのシェフ、ジャン ジュンに弟子入り。ヨーロッパの名店やホテルで修行を重ね、製菓の幅広い知識と技術を習得。ロンドンの「ル・コルドン・ブルー」では教鞭も執る。 2009年、グランド ハイアット インチョンのエグゼクティブペストリー シェフに就任し、 2015年7月より現職。

ペストリー ブティック パーク ハイアット 東京
PASTRY BOUTIQUE
東京都新宿区西新宿3-7-1-2 パーク ハイアット 東京 2F
03-5323-3462
● 11:00~19:00
● 無休
● 1階デリカテッセンでイートイン可


※紹介している2皿は、いずれもプライベートダイニングでのオリジナルメニューからのイメージ。

外川ゆい=取材、文 福本和洋=撮影

本記事は雑誌料理王国第264号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第264号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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