盆菜は広東や香港でポピュラーな正月料理ですが、もともとは中国の中でも独特の文化を持ち、移動の末に中国各地にて定住している漢民族起源の民族「客家(はっか)」の祝いの料理でした。その客家の中でも、広東に住み着いた一族から盆菜は広がったと言われています。親族や友人の集まるおめでたい席でこのごちそうを囲みながら、変わらぬ絆を確認するのです。
さて、この盆菜の実際の提供ですが、まず大きな鍋に食材がぎっしり詰まった状態で運ばれてきます。ここに特製の濃厚なスープを注ぎ、火にかけてぐつぐつと温め、具材を取り分けて皆でいただくのです。
その具材は以下の通り(蟹王府の例)。
◆上段
伊勢海老、上海蟹、フカヒレ、鮑、ナマコ
◆中段
ガチョウのもみじ、魚の浮き袋、花椎茸、豚足、獅子頭(豚肉のミートボール)
◆下段
大根、里芋、れんこん、湯葉
上記の具材はそれぞれに下ごしらえ、必要なものには味を染み込ませる調理を済ませておき、最適な味わいに仕上げておきます。それを鍋の中にきれいに詰めて、盛り入れの完成です。
と、言葉で説明すると簡単ですが、特にフカヒレ、鮑、なまこ、浮き袋などの高級乾物は、その「最適な味わい」にするのが大変で、時間と技術が必要です――まずはもどすのに2〜3日。水に浸してごく穏やかに加熱してからゆっくりと冷まし、適切に水を換えながら数日かけ、最適な柔らかさをめざします。さらにスープに浸して、やさしく加熱しては冷ます作業をくり返し、味をしみ込ませる工程に。ここにも2〜3日かけます。なおこのスープも手間をかけて作るものです。
これらの高級乾物は単品でも主役を張る食材ですので、そのインパクトや食べごたえは相当のもの。盆菜ではそれらを集めて食べる、実に特別な料理なのです。
中段のガチョウのもみじ(足のゼラチン質と旨みを楽しむ)、豚足からも旨みが出ます。これらの素材からは豊富なゼラチン質も溶け出て、のちに注ぐスープにいっそうの深みをもたらします。
下段、すなわち鍋の底に入れる大根、里芋、れんこん、湯葉もポイント。上段・中段の具材からしみ出る味と、特製のスープの旨みをしっかりと吸った野菜類の味わいは格別です。
これだけ味わい豊かな具材を使いながら、鍋に注ぐスープもまた、濃厚な旨みを備えています。その材料は、金華ハム、豚足、丸鶏など。8時間ほど煮込んで作り、さらに鮑のもどし汁を加えて仕上げます。濃厚でさまざまな素材からの味が渾然一体となったスープです。
このスープを、具材を並べた鍋に注ぎ、火にかけます。ぐつぐつと煮立ってきたら、いよいよ取り分けです。人数分の上段・中段の素材とスープを個々に盛り付けて、まずは豪華な一皿を楽しみます。その後は、鍋にスープをたっぷり注いで各自自由に具材を取り、銘々のペースで食べすすめます。
そして締めはご飯や麺を投入するのがおすすめ。スープの旨みを余すところなく楽しむのです。
このように、最大のぜいたくを大人数で楽しむのが盆菜の本来の姿です。蟹王府ではそのスタイルを踏襲し、6名〜8名をワンセットにして販売しています(税込8万8000円。テイクアウト、配送もあり)。また、近頃では日本でも、ホテルや街場の広東料理店で盆菜をちらほら見かけるようになっており、2〜3人などの少人数分の商品も登場しています。
これからますますポピュラーになっていきそうな盆菜。蟹王府では今年は旧正月の22日までメニューに載るので(予約は19日まで)、楽しんでみてはいかがでしょうか。
蟹王府(シェワンフ) 日本橋店
東京都中央区日本橋室町2-1-1 三井二号館1階
03-6665-0958
https://www.shintai.co.jp
text・photo:柴田泉