飛矢和行さんは、北部ピエモンテから南部シチリアまで、イタリアの6州で4年間修業をしてきた。そのうえで「南イタリアの料理が好き」という結論にたどり着いた。
「タマネギやセロリを利かせた北の料理も旨いけれど、ちょっと重い。魚介類、トマト、ニンニク、オリーブ……などで作る軽快な南イタリアの料理に惹かれました」。だから飛矢さんは、ナスやモッツァレラなど、南イタリアでよく使われる食材を多用する。ことにメインとなる魚介類にはこだわりが強く、月に2回は自ら金沢市の漁港に出かける。日本海で獲れる新鮮なカニやサバは、愛知県では手に入らないからだ。
もちろんメインを活かす食材にも、徹底的にこだわる。トマトはその代表格だ。生と缶詰を合わせて常時5、6種を用意して使い分ける。「使い分けのポイントは加熱。じっくり煮るのか、さっと火を通すのか、生で食べるのかによって、合う品種が違います。最大の違いは糖度です」イタリアンは加糖しないのが鉄則。すなわち素材の持ち味こそが仕上がりを左右するのだ。
「生はもちろん、実は缶詰にも個体差があるんですよ。私は、『カンポ・グランデ ポモドーリ・ペラーティ』を基本に使っています。プーリア州ブリンディジ周辺で露地栽培にて生産された、サン・マルツァーノの改良品種のものです。これを試食して、作りたい料理の最終的な酸味や甘味のバランスを考慮して、足りなければほかのトマト缶をブレンドしてソースに使ったりもしますよ」
今回の料理は、南イタリアの伝統的な組み合わせでは、ドライトマトを用いる。しかし糖度の高いアイコトマトなら、フレッシュ感を活かした方がいいと考え、ボッタルガ(カラスミ)でコクを補った。アンチョビを炒めて潰した後は、一気に仕上げてゆく。トマトの旨味、アンチョビの塩気、ケイパーの酸味、イタリアンパセリのさわやかさ。そして決め手は自家製のアンティコペーストと、炒めておいたニンニク。いわばダシの役目を果たす、大事なひとさじだ。
「南イタリアの料理はスピードが勝負! どの食材も加熱しすぎないよう、出来上がりを逆算して鍋に入れてゆきます。この順番と加熱具合の見極めがすべてと言ってもいい」
もたつくとメカジキが固くなり、トマトの風味が損なわれる。丁寧に時間をかけて作ったソースやペーストと、素早く次々と火にかけられる食材たち。このバランスこそが完成度を決めるのだ。多くの素材が絶妙に交じり合う複雑な味をシチリアの薄いパスタ、スパッカテッレが絡め取る。本場で学んだ技をベースに飛矢さんは、それに独自のアレンジを積極的に取り込むのだ。
「結局は按配なんです。塩梅とも書くように、塩味と酸味のバランス。そこに『飛矢の味』の秘密があるのだと思います」名古屋に南イタリア料理店がなかった頃から、シチリアやナポリの味を貫いてきた飛矢さんだからこそ言える、重みのあるひと言だ。
材料(1人分)
スパッカテッレ(パスタ)…80ℊ
メカジキ…40ℊ
アイコトマト…3個
アンチョビ、エクストラヴァージンオリーブオイル…各適量
白ワイン…少量
アンティコペースト(オリーブオイルにトウガラシ、レーズン、松の実、タイム、ローリエ等を漬け込んでペースト状にしたもの)、ニンニク(みじん切りにして炒めたもの)…各適量
ケイパー…大さじ1
イタリアンパセリ(みじん切り)…2つまみ
カラスミ…大さじ2
◆盛り付け用
エクストラヴァージンオリーブオイル、イタリアンパセリのみじん切り、カラスミ…各少量
作り方
1.メカジキは1.5㎝ほどの角切りにする。アイコトマトはヘタを取ってざく切りにする。パスタは固めにボイルしておく。
2.フライパンにアンチョビとエクストラヴァージンオリーブオイルを入れて、加熱しながらアンチョビを潰す。1のメカジキ、トマトを加えて絡めるように炒め、白ワインを加えてフランベする。
3.アンティコペースト、ニンニクを入れて炒め、馴染んだらパスタのゆで汁をレードル1/2杯ほど加えて混ぜる。ケイパー、イタリアンパセリの順に加えながら炒め合わせ、パスタ、カラスミを加えて和える。
4. 3を皿に盛り付けて、エクストラヴァージンオリーブオイルを回しかけ、イタリアンパセリ、カラスミを散らす。
Kazuyuki Hiya
1968年名古屋市生まれ。1995年より渡伊、カンパーニャ、シチリアなどのレストランで4年間経験を積む。1999年より名古屋の「アル アビス」総料理長を務める。2002年に「ラ・バルカ」で独立開店、 2013年に現在の場所へ移転。
藤田アキ=取材、文 畑中勝如=撮影
本記事は雑誌料理王国2015年6月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2015年6月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。