シェフが選ぶシェフ。「トムクリオーザ」浅井努さん


浅井努さんのテーマは「イタリア料理の楽しさ、おいしさを伝えること」。名物のひと皿は希少なネロ・パルマの生ハムやサラミなど、浅井さんが考える「イタリアの優れた製品」の盛り合わせだ。


「イタリアならではの食材と、パスタが僕にとってのイタリア料理。わかりやすい味を紹介したくて、少量づつで多皿のコース1本にしています」

パスタはコースの中で何度も登場する。中でも人気なのは、1年ほど前から定番化した、アワビのコンソメスープ。牛のブロードと仔牛のすね肉や香味野菜で取ったスープに、アワビの肝を包んだラビオリと蒸しアワビが入っている。


アワビのコンソメスープ
牛のブロードのスープの中には、3時間蒸したアワビ、アワビの肝とポル
チーニのデュクセルを包んだラビオリが入っている。フィルムを切り開き、
スプーンで添えたトリュフを投入すると、フワリと香りが立ち上る。

浅井さんは、関西イタリアンの雄、山根大助さん率いる「ポンテベッキオ」で、
15年を過ごした。基礎は山根シェフの『最適調理』。

「どんな食材にも一番適した調理方法があると思います。その時の食材が最大限に活きる、最小限の組み合わせで、印象に残る料理にしたい」。アワビのスープは、春はタケノコと木の芽、ホワイトアスパラを経て、夏は焼きナス、秋は松茸と、合わせる食材が季節で変わる。「今これを食べて欲しい」という気持ちがきちんと込められた、「何を食べたかわかる」ひと皿にするためだ。

愛用のパスタ成型器。手打ちパスタは得意料理のひとつ。コースの中に2~4回も登場し、長いコースのベースの役割を担う。
スープはフィルムに包んで加熱し香りを閉じ込めたままテーブルへ。卓上でシェフ自らハサミで切り開くプレゼンテーションも楽しい。

カウンターには、レトロなパルマ製の生ハムスライサーが存在感を醸す。「うちのシンボルです」と笑う浅井さん。「隅々まで自分がやりたい」と、あえて小さな店を選び、接客までをこなす。赤い生ハムスライサーに象徴されるような、はっきりと主張のある料理がていねいに紡がれている。

【レシピ】アワビのコンソメスープ

材料(4人分)
アワビ…1個/大根…スライス2枚/昆布…2枚/トリュフ…少量
◦コンソメスープ(作りやすい分量)
牛のブロード、香味野菜、仔牛のスネのミンチ、トマトペースト、卵白、生ハムの端…各適量
◦ラビオリ(作りやすい分量)
ラビオリ生地(手打ち)…2枚/アワビの肝…1個分/全卵…少量/ポルチーニのデュクセル…アワビの肝と同量/パルミジャーノ・レッジャーノ…少量

作り方
1.アワビは大根のスライスと昆布で挟み、真空パックにする。100℃のスチームコンベクションオーブンで3時間蒸す。
2.ラビオリを作る。1のアワビの肝を叩く。そのほかの材料と混ぜ合わせ、生地で包み、成型する。
3.スープを作る。冷たいブロードに、香味野菜、仔牛のすねのミンチ、トマトペーストを加えて沸かし、卵白を入れて攪拌する。できあがる10 ~15分前に生ハムの端を入れて、火を止めて漉す。
4.皿に耐熱フィルムを広げて、1のアワビの1/4個を半分にカットしたもの、2のラビオリ4、5個をのせて、3のスープを50㏄注ぐ。耐熱フィルムをリボンで巾着に縛り、フライパンで加熱する。中が沸騰したらフィルムのまま皿に盛り、刻んだトリュフをのせたスプーンを添えて提供する。卓上でフィルムをカットして、トリュフを入れる。

Tsutomu Asai
1977年富山県生まれ。専門学校
在学中から「ポンテベッキオ」でアルバイトを開始。卒業後入社して5 年間働く。23歳で退社し、1 年半の間にヨーロッパ、アジアを回り、見聞を広める。
帰国後再入社、系列店のスーシェフ、シェフを約10年務める。
2013年独立。

藤田アキ=取材、文 川瀬典子=撮影

本記事は雑誌料理王国254号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は254号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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