食の都パリで、食ジャーナリストして活動する伊藤文さんから届く美食ニュースをお届けする本連載。今回は、パリのレストラン界で敏腕経営者として知られ、その躍進が止まらないステファン・マニゴールドについて。
2020年のパンデミック以来、その名を馳せるレストラン経営者ステファン・マニゴールド。昨年には、パリとイル・ド・フランス地域のホテル職業産業連合(UMIH)の会長に満場一致で就任するなど、同業者の信頼を一身に受けている。
パリに6軒のレストランを所有する「エクロール・グループ」代表者。若手の料理人を起用し、彼らに活躍の場を設けることを信条とする。2020年の年始には、ミシュランの2つ星を40年来堅持してきた、料理人の重鎮ミッシェル・ロスタンによる「メゾン ロスタン」を受け継ぎ、注目されることに。
しかし、彼の名を有名にしたのは、パンデミックによるロックダウンで起こした彼の行動だった。ロックダウンで、レストラン・カフェ・バーは閉店に追い込まれたが、多くの経営者たちは、未曾有の損害を受け、保険会社との契約を省みる。何年も毎年高額の保険料を垂れ流し的に払ってきたが、多くの保険会社は、例外的な事態に対して、営業損失の補償はできないとはねつけた。経営者たちを憤慨させることになったが、ほぼ泣き寝入りとなった。
ところが、マニゴールドは、契約していた保険会社AXAを相手取り、契約内容に除外条項は含まれておらず、保証すべきだと訴えた。あきらめることなく戦い続け、最終的に勝利したことは、多くの経営者にとっての希望となったのだ。
そしてこの度の仏版ミシュラン・ガイドで、彼が経営する3つのレストランに1つ星がもたらされたことは、彼のこうした行動に報いるような結果となった。その3軒とは、マチアス・マルクシェフによる「シュブスタンス」。トム・メイヤーによる「グラテ」。そして、ケヴィン・ドゥ・ポールとエルヴァン・ルドリュによる「コントラスト」だ。今年は2軒のレストランが3つ星に輝いたが、マニゴールドにとっても新たに3つの星がもたらされることに。「メゾン ロスタン」も2つ星を維持し、小さなグループではあるが、5つ星を獲得する経営者として、その名をさらにあげたのである。
自伝「Vivre ses rêves afin de rêver de sa vie(自分の人生を夢見るために、夢を生きる)」も上梓したばかり。貧しい幼少期を過ごし、11歳では初仕事、ピザの配達人、ラジオの司会、DJと職業を転々としたのちに、レストラン経営に乗り出していく、波乱万丈の人生を振り返っている。
ニースの名ホテル「ネグレスコ」のセカンド・シェフを務めていたヴィクトリア・ボレールとも契約し、初の女性シェフを起用。マニゴールドの世界は、未来のフランス料理を担う人々に希望の光を投げかけている。
text:伊藤 文