今回、窪田さんに披露してもらったのは、鶏のさばき方だ。駆け出しの頃、肉部門に配属されたものの、職場では肉の扱い方を教えてもらえなかったという。「当時は先輩後輩の関係も厳しく、教えを乞う環境ではなかった。自ら動くしかありませんでしたので、自主的に出入りの精肉店に頼み込み、最初は鶏のさばき方から始まって、それ以外の肉もさばけるようになりました」
昔は、中抜き(内臓を取って掃除した状態)で脚がついたまま精肉店から届いたという鶏。今は、脚を落とした状態で流通するようになっている。「脚がついた状態で届いていた時は、モモからアキレス腱の部分を引き抜くと筋が残らなかったんです。でも、今は脚がついていない状態で納品されるので、筋が残ってしまうことがあります」と、注意点を挙げた。
鶏をうまくさばくコツは、「皮と筋を上手に切ること。そうすれば、骨しか残らない。あとは、余計な力を入れずに肉を引っ張れば、すべてきれいに骨からはがれます」。「肉をうまくさばく」=「肉を骨に残さないこと」なのだ。「時々、ペティナイフでさばく人がいますが、それでちょこちょこさばいていると鮮度が落ちてしまうので、包丁を使ったほうがいいですね」と、基本を説きながら、厨房に入った窪田さんは、さっそく鶏の脚を持ち、ぶら下げた状態でスッとモモの付け根から包丁を入れて行く。
最初に外すのはモモ肉だ。まな板に置き、モモの付け根に指を入れる。「ここで関節を外し、外側に向かってグッと開くと、簡単に骨から肉が外れます」と、ひとつひとつの工程をポイントごとに解説してくれる窪田さん。次は胸肉に取りかかる。「胸骨に包丁を入れて、首を切る。胸の関節は目に見えないけれど触った感じでわかります。そこで骨を包丁で押さえて、肉を引っ張ると、胸肉がきれいに外れます」。残りはガラとして、スープの原料になる。さばきたたての胸肉は、中に生ハムを詰め、チーズパン粉をまぶし、200℃のオーブンで約7分火入れして「シュプレームパルメザン」に。鶏胸肉のジューシーな味わいと、添えられたトマトソースの甘味や酸味の調和が楽しめる。「今は、胸は胸、ささみはささみと、部位別にさばいた状態で精肉店から届くので、鶏一羽をさばく機会が減っているのではないかと思います。でも、プロとしては身につけてほしい技術。ボタンをひとつ押せば料理ができてしまう今だからこそ、いま一度、基本に立ち帰ってほしい」。
Yoshinao Kubota
1932年東京都生まれ。「丸の内会館」にて、フランス料理を学ぶ。「天皇の料理番」といわれた秋山徳蔵氏に可愛がられ、哲学や技術を体得。現在8店舗ある「グリル満天星」の総料理長を務める。
浅井直子=取材、文 花村謙太朗=撮影
本記事は雑誌料理王国284号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 284号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。