富山を代表する春の味覚というと、ホタルイカを思い浮かべる。だが、富山湾で春から漁獲される魚介はほかにもある。シロエビだ。時間が経つと乳白色になることからその名があるが、漁獲されたばかりの体色は透明で、わずかにピンクがかった美しい色をしている。
口に含むとエビ特有のとろみがあり、甘美なことこの上ない。ところが、殻をむくのに手間がかかるため、その昔は煮干しにしたり、釣り餌に利用していたという。
「20年前までは干したものを食紅で染め、サクラエビの代用品として売っていました。干すと飴色になることから、ベッコウエビとも呼ばれています」と語るのは、富山県農林水産部水産漁港課主任の南條暢聡さん。
代用品だった時代は浜値も安く、シロエビを捕る漁師も少なかった。ところがその後、一度冷凍すると殻がむきやすくなることが判明。最新の冷凍技術を導入した地元の水産加工業者が、殻をむいた刺身用のむき身の販売を始めた。以来、上品なシロエビのむき身は、高級食材として商品価値が高まっていった。
おかげで浜値が上がり、今ではシロエビ専門の若い漁師も増えてきた。現在、新湊漁港(射水市)では11隻、岩瀬漁港(富山市)では6隻の漁船が、シロエビの漁期の4月から11月まで専用の底曳き網で漁をしている。
射水市内のスーパーの鮮魚コーナーにもシロエビのむき身が並んでいた。だが、一般家庭では刺身で食べる機会は少ないという。衣を付けるとかさが増え、食べ出があるので、殻付きのまま、かき揚げやから揚げにすることが多いそうだ。首都圏へも殻付きとむき身が出荷されているので、かき揚げや刺身などで、殻の香ばしさや身の甘さを味わいたい。
オキエビ科。標準和名はシラエビ。地元富山県ではシロエビ、ヒラタエビ、ベッコウエビとも呼ばれる。繊細なガラス細工のような姿をしていることから、ジャパニーズ・グラス・シュリンプという英名を授かった。体長は約6~10cm。透明感のある薄いピンク色をしていることから、「富山湾の宝石」と謳われている。日本各地に分布しているが、専業で漁を行っているのは、富山湾にある新湊漁港と岩瀬漁港のみ。寿命は2年から2年半といわれ、あいがめ、ふけと呼ばれる富山湾の海底の谷間の、水深200~300mに生息。これを専用の底曳き網「かけまわし網」で漁獲する。シロエビ漁が始まったのは明治期で、歴史は比較的新しく、近年の年間漁獲高は約600t。ちなみにホタルイカ漁は江戸中期から行われており、その年間漁獲高は約2000t。ホタルイカと比べると、シロエビの漁獲高は圧倒的に少ない。だが、むき身の上品な甘さとおいしさが受け入れられたことで近年単価が上がり、その産出額はホタルイカとほぼ同額になってきたという。近年、首都圏や関西方面でも、殻付きのシロエビと、刺身用にむき身に加工したものが流通している。
武井武史=文、ヤスクニ=写真
本記事は雑誌料理王国2010年7月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2010年7月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。