関西は牛肉文化の牙城。豚は牛より格下というイメージが根強い。
「レストランのクオリティでバラ肉を使うには、ドレスアップして前菜に仕上げるのがいいと思いました」と、高田裕介シェフ。そこで、単純に味のイメージとしてジャンボン・ペルシエ(ハムとパセリのテリーヌ)からひと皿を考案した。パセリの苦味やクセが豚の旨味を引き立てる、フレンチの定番料理を、高田さんは分解して再構築。パセリだけではなく万願寺唐辛子など季節の野菜をふんだんに盛り込み、絶妙なバランスで豚肉をまとめあげたのだ。
バラ肉は3日間マリネし、79度のブイヨンで10時間煮込む。一旦真空をかけ、出す前に80度でヴァプール(蒸す)する。徹底的に時間をかけた繊細な火入れは、しっとりとしつつ歯切れがよく、とろけるようにやわらかい食感を生んだ。
ここにモモ肉のムースとイカスミのパートをのせて、カリカリに焼いた皮をほんの少し。多彩な食感が楽しく、見た目にも美しいひと切れに仕上がった。
豚を見つめながら「さあ、どうしようかな」と、高田さん。
「さっきまでクネルとスープにしようと思ってたんですけど、急に面白
くなくなっちゃって」
あらかじめ仕込んでおいたソースやガルニチュール(付け合せ)などから、どんな皿に仕立てるかはその場の発想で決めてしまう。
「こうかなあ」
イカスミのパートをのせた
やわらかい黒豚バラ
食感を追求した鹿児島産黒豚バラ肉と、カリカリの皮。一見シンプルなソースとガルニには、万願寺唐辛子、パセリ、ミントなど10種以上の緑野菜が忍ぶ。イカスミ入り豚モモ肉パートの不思議なテクスチャーと、鮮やかなグリーンがショッキングだ。
突然、頭上からソースを落とし、液体はクロスにまで飛び散った。
「うん、この方が俺っぽいな」
正確な直方体、層を成す側面、上面の幾何学柄。美しく端正に見える豚に、ソースの緑と漆器の黒が鮮烈だ。なんとも大胆でシンプルな、高田さんらしい表現。しかし裏腹に、調理内容は実に複雑なものなのだ。
緑色の中身は10種以上の野菜。苦味や酸味をホオズキのジャムが繋ぐ。
「似た甘さのものなら何でもいい。フードペアリングのような科学的根拠というより、あくまで自分の記憶で連想して繋げます。AとBは合わないけど、Cを入れれば繋がる、みたいな感じ。これが料理人さんの色表現、個性になると思います」。
理論的に組み立てられた、絶妙な味わい。豚を包み込むようなソースとガルニチュールが仕上がった。夏を思わせるさわやかさとほろ苦さが、やわらかい豚をエレガントに引き立てている。
店内は一見カジュアルに見えて、随所に高田さんのセンスが光る。目を引くのは真っ白なテーブルクロス。
「そろそろ次のステージへチャレンジしようかと……時代に逆行してるでしょ(笑)。芯さえぶれなければ、箱なんていくら変わってもいいんですよ。そもそも料理の技法は、時代とともに変わるものですから」
豚肉も同じ。脂なのか風味なのか、素材の個性に合わせて調理法を発想すればいい、と言う高田さん。類まれなインスピレーションを武器に、これからもフレンチシーンを軽快に駆け抜けてゆくのだろう。
1977年鹿児島県奄美大島生まれ。辻調理師専門学校を卒業後、大阪「カランドリエ」など3軒のレストランに勤務。
2007年より約2年間パリの「ルムーリス」などで研鑽を積んで帰国。2010年3月「ラ・シーム」開店。
ラ・シーム
la cime
大阪府大阪市中央区瓦町3-2-15
瓦町ウサミビル1F
☎06-6222-2010
●12:00~13:00LO、18:30~20:00LO
●日休(祝日不定休)
●昼コース5300円、10800円
夜コース8100円~
(税込み、サービス料5%別途)
www.la-cime.com
藤田アキ=取材、文 三國賢一=撮影
本記事は雑誌料理王国251号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は251号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。