「今行きたい、イタリアン10名店」『ポンテベッキオ』


1986年、イタリア修業から帰国した山根大助シェフがオープンした小さな店から「ポンテベッキオ」の歴史は始まった。本町から天満橋、そして北浜へと場所を移しながら成長を重ねて35年。四季折々の素材の個性を伸びやかに生かし、イタリア人の考えるおいしさを巧みに表現する料理と本物志向の遊び心あふれるモダンな空間で今や他に類を見ないリストランテとなった。

2020年春から相次ぐ緊急事態宣言により休業を余儀なくされた。系列店を含め100人近いスタッフを抱える店は存続の危機を感じたと山根大助シェフは話す。6月初旬現在も緊急事態宣言が延長され、アルコール類の提供制限など、リストランテにとって厳しい状況は続いている。


「現状を嘆いていても仕方がない。コロナ後に生き残るために今はピット作業中。レースが再開になったときにいち早くバーッと走れるように。『攻める』ための勉強やアイデアを練る、新しいことに取り組むチャンスにしたいと思っています」。


今年3月からYouTubeにて「ポンテベッキオ山根大助の全力イタリアン」の配信をスタート。若いスタッフたちの勉強もかねて基本的なイタリア料理、調理科学、最適調理について月に10本ペースでアップしている。イタリアンに興味を持ってもらう、店を知ってもらうきっかけづくりでもある。

また、コロナ治療にあたる医療従事者に向けて無償でお弁当を届ける支援活動にも積極的に参加。「自分たちにできること=料理で世の中の役に立っている」という確かな手応えと喜びを感じたという。

「ポンテベッキオ」創業35周年の記念すべき2021年、山根シェフは還暦を迎える。「これから70歳までの10年をどう生きるのか、考えるようになりました」。マーケティングに妥協せず、作りたいのはイタリア料理の範疇で素材に最適な調理を施した、ピュアで品がある料理。現役である以上はオリジナルな料理を作り続けたいと考えている。


「僕は一つの料理が出来上がると、毎年ブラッシュアップを図り、定番化していく傾向があります。今ではすっかりおなじみになった『鮎のコンフィ』はその代表的なものです」。

高知県四万十天然鮎のコンフィの熱々と瓜たちのマチェドニアとメロンのソルベットを添えて
110℃のオイルで2時間半~3時間コンフィにした鮎は冷やした後、両面をパリッと香ばしく焼く。鮎の内臓の苦みや瓜に似た香りを意識したマチェドニアにはキュウリ、アオウリなどを使い、ナッツオイルでコクをプラス。生ハム、プリンスメロンの実とソルベを添えた料理は、熱さと冷たさの温度差を楽しむ趣向。


「鮎の塩焼き」を越えるおいしさを求め、頭も骨も美味しく食べられるコンフィを選択した。熱々の鮎に添えるのはメロンのソルベ。冷たいものと熱いものを交互に食べるイタリア人的な発想は、新作メニュー「鮑 蛤 鳥貝 鱧のクレソンアヒージョ 冷たい茄子のキャビア添え」にも生かされている。


料理以外にも、常任理事をつとめる全日本・食学会の活動で、八丈島にてジャージー種などの乳牛種の食肉生産体系を目指すプロジェクトに参加。「健康的に肥育された赤身肉のおいしさを広めたい」と、肉の繊維に対して直角に細かい切れ目を入れることで赤身肉を柔らかくする独自の「Dカッター」の開発にも成功した。また、今回の新作を盛り付けた保温・保冷に特化した食器もシェフのオリジナルである。関西イタリア料理界のゴッドファーザーは常に臨戦態勢。コロナ終息後の次の〝一手〞が楽しみでならなない。

ポンテベッキオ
大阪府大阪市中央区北浜1-8-16
大阪証券取引所ビル1F
TEL 06-6229-7770
11:30~14:00LE、
18:00~21:00LE
不定休

text: Sawako Yamada photo: Koichi Higashiya

本記事は雑誌料理王国317号(2021年8号)の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は317号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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