コロナ禍になり、より考える時間が増えたのは皆さんも同じだと思う。考えれば考える程、焦点がブレて行動に移せない時が多い。沢山の時間があればこそ、流れに身を委ねるのも良いと思う。
そんなコロナ禍にありながら、パリのレストランの再開に至るまで世界各国でポップアップレストランを続けたシェフがいる。「Maison(メゾン)」の渥美創太だ。
コロナ前からレストランの設備の問題を抱えながらスタッフの生活を守り、ポップアップのオファーがあればその土地に向かう。私もポップアップやイベントを行ってきたが、創太と食事した時に色々と話す事で、彼のクリエイティビティを改めて感じた。材料も全て現地調達、現地に入りマルシェを見て周り、使える材料を見極め、初めて使う食材も自分のフィルターを通してひと皿に落とし込む。地のお客様も馴染みのある食材がある事で心を擽ぐられる。
そのバイタリティが世界中のお客様を虜にするのである。
スタッフと2人で現地に行く事もあればチームで行く事もある。または家族を連れて自身も子供と一緒に楽しむ姿は、まさにフランス人。
「ありがたい多くのご縁で、工事期間中も毎月外国へ行き、イベントを開催しました。できれば家族とスタッフ全員を連れていきたいですが、なかなか難しいので、スーシェフやパティシエだけでも同行できるようにしています。その土地それぞれ、呼んでくれるレストランそれぞれに信念とセンスがあり、学ぶことはたくさんあります。だからこそ、家族やチームと出来る限りシェアしたい。自分達の店はいろんな人達、いろんな場所からたくさんのことを学び、その上できているんだと感じています」
そう、彼はいう。
2021年11月、シャンパーニュ。「友人のレストランです。自分のレストランじゃないってことは、キッチンや食材の環境も毎回違う。外で焼いたり、現地の木を使ったり、地元のとれたての猪を一頭焼いたり。そうやってその時できることと本気で向かい合っていると、必ず学びがあり、新しいスキルや発見が得られます。だからこそ、自分のレシピやシグネチャーなんか持たずに、そこで何に出会えるか、何を使え、何ができるか?と言う問いに向き合って料理しています。それが全て、パリの自分達のレストランに返ってきていると思います」(渥美シェフ)
もちろん「Maison」と言うブランドがあるからではあるが、今の自分が出来る事を、今の力を発揮出来るシチュエーションを見つけ、行動する。それはチャンスを自ら手繰り寄せているからだと思う。
創太は辛いとか厳しいとか言う言葉を、言わない。今、出来る事が楽しいとだけ言う。
資金繰りやスタッフのケアなど本当に大変だと思う。ただそんな環境を楽しんでいる様にさえ見える。
パリでレストランを持つ事が通過点になりつつある今、世界中の食材に触れ、お料理を作り、文化に触れ、人脈を築く事が大切である。そしてインプット、アウトプットを繰り返す。その行動がレストランにダイレクトに影響を与える。
お皿の上や店作り以外の部分を見据えてのイマジネーションは、パリをベースに世界に進出するきっかけになるのかも知れない。それら全てを抱え、ナチュラルに身を委ねる事が出来るシェフは、日本国内外に少ない。渥美創太はそんな、数少ないシェフの一人だろう。
渡邊卓也
1976年、北海道生まれ。2013年にフランス・パリに鮨と日本酒を楽しめる店「JIN 仁」をオープン。地産地消をコンセプトに掲げ、フランス近郊で獲れる魚をメイン食材に使用している。2014年にミシュラン1つ星獲得。
text・photo:渡邉卓也