World News NY:日本人シェフが魅せる、フレンチの技術と日本の感性

ブルックリンのマーケットプレイス「50ノーマン」の奥に誕生した新店「ハウス・ブルックリン」で、谷祐二オーナーシェフによる、複雑で繊細な“ジャパニーズ・フレンチ”を堪能。

多文化が共生するアメリカの大都市ニューヨーク。世界の最先端を行くこの街で活動するライター&プロデューサーの小松優美さんが、美食の最新情報をレポート。この日、小松さんが訪れたのは、ブルックリンのマーケットプレイス「50ノーマン」の奥に誕生した新店「ハウス・ブルックリン」。谷祐二オーナーシェフによる、複雑で繊細な“ジャパニーズ・フレンチ”を堪能した。

日本人シェフによるジャパニーズ・フレンチという新ジャンルが今、ニューヨークのフードシーンに刻まれつつある。

さる12月、ブルックリンはグリーンポイントにあるマーケットスペース「50ノーマン」の奥に、隠れ家のようなレストランが誕生した。その名は、「ハウス・ブルックリン」。西麻布にある和とフレンチのモダンビストロ「ハウス」の二号店として海を渡った新星だ。

インダストリアルな建物の中にあるそこは、引き戸によって静寂な小空間を作り出す茶室のような造り。オフホワイトとグレーが織りなすモダンなインテリアは過度に東洋的演出を押し付けることなく、北欧スタイルのようなぬくもりに満ちている。真新しい厨房を眺める全8席のカウンターでは、日本の食文化を巧みに反映させた“ジャパニーズ・フレンチ”が9皿から11皿のコースで提供される。

写真の左端が、オーナーシェフの谷祐二さん。日本の食文化を反映させた“ジャパニーズ・フレンチ”のテイスティングメニュー($150)で評判を呼んでいる。 ©Naoki Fukuda
写真の左端が、オーナーシェフの谷祐二さん。日本の食文化を反映させた“ジャパニーズ・フレンチ”のテイスティングメニュー($150)で評判を呼んでいる。
©Naoki Fukuda

「2016年から動き出して、開店までに足掛け6年かかりました」。そう語るのは、オーナーシェフの谷祐二氏だ。自己資金の準備はもちろんのこと、物件探しから契約に至るまでのニューヨーク特有の煩雑な工程もすべて自分で試行錯誤して行ってきたものの、コロナ禍ですべてがストップした。だが、「かえってコロナ禍のおかげで自分を見つめ直し、素直に自分のクリエイティブを表現できるスケールのサイズに落ち着いたのです」と振り返る。

谷氏は京都出身のフレンチシェフ。営業職の会社員時代を経て、食の道を目指して20代で脱サラし、京都のフレンチ「ベルクール」でリヨン料理の修行を積んだ。その後、数々の飲食店でシェフを務め、2005年に西麻布に「ハウス」を開店。シェフを務める一方で、ホテルやレストランのコンサルやマネージメントも行い、2015年からはオーナーに。海外出店は長年の夢だった。「ニューヨークは他民族がゆえに自由度が高く、異なるものを受け入れる土壌があります。そして、世界一の街というイメージも魅力でした」。

ハウス・ブルックリンの料理 ©Rockefeller Center
ハウス・ブルックリンの料理
©Rockefeller Center

そんなシェフの持ち味は、複雑にフレーバーを重ねるフレンチの技と、出汁や発酵でクリーンな旨味を深める京都スタイルの繊細さの融合だ。

「リークのヴィネグレット」や「白ワインソースでいただく鰆の春巻き」、「フォアグラと柴漬けのピラフ」など、フレンチを軸に鮮やかな表現を見せる。日本全国の産地を訪ねて培ってきた食材の知識を財産に、旬の素材をフレンチの豊かな表現で料理しながら、和の食文化をさりげなく反映させている。なお季節の食材は土地のものを中心に使いつつ、魚だけは日本から仕入れたものにこだわっているという。

ハウス・ブルックリンの料理
©Naoki Fukuda

「ニューヨークでは、食のレベルよりも競争を勝ち抜くための“ビジネス”のレベルが高い。僕は素材をいかにして美味しく食べられるか、お客様が何を食べているかが明確に伝わるようにしたいと思っています」。また、ライフスタイルショップの買い付けにも携わっていた経験からも、器と料理のスタイリングにも独自のデザインの感性をのぞかせている。

地元メディアからその前評判を聞きつけたフーディたちがすでに訪れており、日本食材に興味津々の同業シェフたちからも熱い視線を浴びている。寿司や懐石以外での新たなジャンルで活躍する日本人シェフが今後も続くことを願う。

©Rockefeller Center
©Rockefeller Center

ハウス・ブルックリン
https://house-bk.com/
Instgram @house_brooklyn.restaurant

text:小松 優美

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