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キャラメリゼした表面がそそる!骨付きスネ肉のローストクラシックスタイル


銘柄だけを信じるな。飼育環境、飼料に水、生態系まで考える

リストランテ イ・ルンガ 堀江純一郎さん

 堀江シェフが奈良に移って以来4年近く使っている、地元産のばあく豚。その肉の魅力を尋ねると意外な答えが返って来た。

「あの辺りは雑木林ですからね」たしかに、ばあく豚は南北に長い奈良県の五條市で飼育されており、和歌山県との県境に近い山深い地だが、果たしてその雑木林が豚にどんな影響を与えるというのだろう。「日本の山はほとんどが植林されたものですが、あの辺りは違う。竹林があると、竹が山の養分を根こそぎ持っていってしまうんです。あそこには竹がないし、植林でもないので、山からの水脈はいい水を運びます」と堀江さん。その水を飲んでばあく豚は育つ。つまり、豚がどのような環境で何を口にして育ったのかを知ることが、銘柄よりずっと大切だというのだ。

「環境と生産者がよい豚の条件」と考える堀江さん。全国各地の生産現場を訪れ、その周辺の環境まで熟知している。「いい食材を使い、料理人が確かな仕事を施せば、必ず美味しい料理になる」が持論だ。

【ばあく豚 スネ】豊かな自然の中で一般よりもひと月長く飼育した旨味の強い豚
焼き上がりはホロリと崩れる状態に仕上げるが、煮崩れを防ぐためにしっかりとたこ糸でスネ肉を縛る。

塩を打たずに余分な水分を抜く火入れの基本はピエモンテ流


 堀江さんが今回披露してくれたのは、ピエモンテ州のクラシックな郷土料理、スネ肉のローストだ。イタリア時代、何度も挑戦して作り方をマスターした。「手間ひまを惜しまず一つひとつの行程をタイミングを外さず調理していけば、必ずそれに見合う美味しさが得られる」料理だと語る。

手間ひまをかけた分だけ「リターン=美味しさ」を得られる料理

 まずは鍋で下火入れを行うが、このとき注目すべきは、最初に豚に塩を打っていないこと。弱火に掛けた鍋の中で、たこ糸で縛ったスネ肉を何度も返しながら、焼きめをつけるのではなく、まず余分な水分を抜いておくのだ。「水が出た後に初めて味入れの塩をします。ここではしっかりと塩を打ち切る。この後はもう味付けはしませんから」と堀江さん。この些細な順番の違いが、後の味に大きな影響を及ぼすという。

 野菜を加えて、炒めた後は火力を上げ、白ワインを回しかけて一気に蒸し焼きにする。そうして鍋ごとオーブンへ入れ、そこからたっぷり3時間の加熱に入る。

「余分な水を抜き、下火入れさえきっちりとできれば、後はオーブンの中でスネ肉自体が自分の持つ脂で勝手にキャラメリゼしながら美味しく焼き上がります」。その間、時折肉を返し、キャラメリゼの補助をする水分としてのワインをまた回しかける。料理は発想力。堀江さんは仕上がりの状態をイメージし、そこから逆算して必要な作業を施すだけだ、と言う。基本的なルセットであるこの料理がうまく作れる人は、他の料理もうまく作れる。

 堀江さんの代名詞とも言われるパスタ「アニョロッティ・ダル・プリン」の詰め物にも、3時間かけて焼き上げたスネ肉のローストをほぐして使う。メインのひと皿になり得るそれを、詰め物に使う贅沢さ。味わい深さは、こうした基本の調理に支えられている。

イ・ルンガから車で2時間あまり走った、奈良県南部の五條市でばあく豚は育つ。

春らしく、肉の味を生かし軽やかに仕立てる応用編


 基本調理をこなせる調理人は応用ができる。続いて堀江さんが披露してくれたのが、ばあく豚のロースを使った軽いラグー。ロースは、さくっとした歯切れの良さを感じてほしいから、じっくり煮込むのではなく、浅めに火を入れた。東京の幻の豚「TOKYO X」に近い味わいだと分析する旨味で、きれいな肉質ゆえ、さっと火を入れるだけで美味しいソースになる。

 パスタの横に添えたのは、ひと晩塩漬けにして茹で上げたばあく豚のバラ肉で作ったボリート。温かいパスタとともに口に運ぶと、すっと上品な脂が溶け出した。自然豊かな場所で育った豚だ、というストーリーに思いを馳せながらいただくひと品だった。

【レシピ】ばあく豚の骨付きスネ肉のロースト クラシックスタイル

肉が持つ水分を出してから調味
先に塩を打って身を締めすぎないこと

骨が飛び出し野性味溢れるスネ肉の塊。表面がキャラメリゼした茶色がそそる。骨周りのゼラチン質、筋張った部分など、まさに旨味が凝縮している。

材料 (つくりやすい量)

骨付きスネ肉…3本/ピュアオリーブオイル…適量/塩、コショウ…各適量/ニンニク…7片/タイム…4枝/セージ…3本/パセリの軸 …1本/ローズマリー…5枝/ニンジン…1 /4本/セロリ…1枝/タマネギ…3個/白ワイン …適量

作り方

1.アルミの鍋にピュアオリーブオイルを注ぎ、たこ糸で括ったスネ肉を投入し、水分を出す。返しながら焼いて、十分に水分が出たら、塩、コショウで味付けをする。
2.ニンニクは皮付きのまま、たたいて鍋に入れる。タイムとセージは手でちぎり、パセリの軸はそのままの状態で、すべて鍋に入れる。

弱火で加熱し水分を抜く
オリーブ油を熱した鍋を弱火にかけて、じわじわと肉が持つ水分を焼きだしている。
肉に塩を打ちここで調味を
返しながら焼き水が抜けたら塩とコショウを打ち、味つける。

3. それぞれみじん切りにした、ニンジン、セロリ、タマネギを入れて炒める。野菜の水分が十分に出たら、塩、コショウをする。
4. 白ワインを注ぎ、アルコール分を飛ばす。鍋に蓋をせず、180℃に熱したオーブンへ入れる。

野菜も炒めてから塩、コショウを
刻んだセロリやタマネギなどの野菜を投入し、炒めてから塩、コショウを野菜にだけかける。
白ワインを回しかけ軽く蒸し焼きに
下火入れの仕上げに白ワインを全体に回しかける。立ち上がる蒸気で肉が包まれる。

5. 3時間焼く。途中、肉を返したり、白ワインを回しかける。
6. オーブンから取り出したら、すぐにラップで巻き、常温に置いて味をなじませる。
7. 温めて皿に盛り付ける。

オーブンへ 3時間の加熱
蓋をせず鍋ごとオーブンへ。 180℃で3時間じっくりと焼き上げていく。
時折肉を返して白ワインをかける
肉がキャラメリゼしながら肉汁でコーティングできるよう、時折ひっくり返したり、白ワインを回しかける。
Jyunichiro Horie
1971年東京都生まれ。96年に渡伊。トスカーナ州、ピエモンテ州を中心に修業後、ピエモンテ州の「リストランテピステルナ」でシェフを務める。帰国後、07年4月、東京・西麻布に「リストランテ ラ・グラディスカ」を開店。09年奈良に現店オープン。

三好彩子=取材、文 伊藤信=撮影

本記事は雑誌料理王国第226号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第226号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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