【美食書評家の「本を喰らう!」】ガトーショコラだけで年商3億円を実現するシェフのスゴイやり方 『余計なことはやめなさい!』


吉村博光(よしむらひろみつ)
大学卒業後、出版取次トーハンで25年間勤務。現在は、HONZや週刊朝日などで書評を執筆中である。生まれは長崎で、ルーツは佐賀。幼少期は福砂屋のカステラ、長じては吉野屋の白玉饅頭が大好物。美食家だった父は、全国各地へ出張するたびに本や名産品を買ってきた。結果として本とグルメに目がなくなり、人呼んで“美食書評家”に。「読んで、食らう」愉しみを皆様にお届けしたい。

最初はレストランのデザートだった

皆様は、ケンズカフェ東京のガトーショコラを食べたことがあるだろうか。ご存知の方も多いと思う。お店は1店舗のみで、今は通販もやってない。商品は13㎝のガトーショコラ(3,000円)1点のみ。予約しておかないと入手することすら難しく、大切な方への手土産としての地位を不動にしつつある、大評判の高級洋菓子である。

しかし意外なことに、ケンズカフェのスタートはレストランだった。本書の著者が、ランチ・喫茶・ディナーを提供するイタリア料理店をオープンしたのは1998年。しかし残念ながら、その数年後には倒産一歩手前まで追い詰められた。そこから次々に「余計なこと」を手離していって現在に至った「過程」が、本書にはまとめられている。

やがてお店のスペシャリテになった

いま「過程」と一言で書いたが、その決断の一つ一つに私は大いにうなった。まずは、夜の時間帯を利益率の高い「受注生産」の宴会だけに絞り込んだ。そして、当時勢いがあった「ぐるなび」に活路を見出し、黒字化に成功。さらに、コース料理のデザートとして好評だったガトーショコラに着目し、テイクアウトを始めることにした。

宴会のお客様が家族に買って帰り、通販サイトからもバンバン注文が入った。やがてこれをスペシャリテ(看板商品)にすることに決め、一部のお客様が離れることを覚悟で、価値を磨き上げつつ3度の値上げを断行した。現在までの間に、ランチも喫茶も宴会も、通販さえも手離し、高級ガトーショコラ専門店としての地位を固めてきた。

3Pを研ぎ澄まして広報に注力

本書では、その決断の背景にある考え方を、惜しげもなく披露している。おそらく著者は、倒産一歩手前だった頃の自分自身に耳打ちするような気持ちで書いたのではないだろうか。多くの飲食店経営者が陥りやすい落とし穴だった、と述懐している。飲食店を経営されている方は、ぜひ著者の親身な声に耳を澄ましてみてはいかがだろう。

「いつまでたっても現状に執着してしまうと、ビジネスに「いいこと」は起こせません」がけっぷちにあった著者が、手離した執着とは何か。それは、マーケティングの4Pのうち、プロダクト、プライス、プレイスの枝葉への執着だった。結果、本稿の冒頭で書いたような形になった。そして、残る最後の1P=広報活動に注力したのである。

本質以外は「余計なこと」

著者は、「小さな会社は宣伝活動が9割」とまで言い切る。では何をすれば良いのか。この点について、多くのページを割いて説明している。読んですぐに行動を起こしたくなるほど、具体的で説得力がある。なかでも私は、プロの広報パーソン選びのコツに共感した。他の本では、なかなか読むことができないノウハウといえる。

肝心なことだが、余計なことをやめるには本質が何か見極めなければならない。著者は開業してしばらくの間「一流のシェフになりたい」と思っていた。しかしやがて、自分の本質に気づいた。それは「とびっきり美味しいもので、きちんと稼いで、お客様も自分も幸せになること」だ。私は自らの胸に手を当てて、本質が何か、考え直してみようと思った。

余計なことはやめなさい! ガトーショコラだけで年商3億円を実現するシェフのスゴイやり方
氏家 健治


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