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【美食書評家の「本を喰らう!」】思考停止に警鐘を鳴らす『賞味期限のウソ』


吉村博光(よしむらひろみつ)
大学卒業後、出版取次トーハンで25年間勤務。現在は、HONZや週刊朝日などで書評を執筆中である。生まれは長崎で、ルーツは佐賀。幼少期は福砂屋のカステラ、長じては吉野屋の白玉饅頭が大好物。美食家だった父は、全国各地へ出張するたびに本や名産品を買ってきた。結果として本とグルメに目がなくなり、人呼んで“美食書評家”に。「読んで、食らう」愉しみを皆様にお届けしたい。

632万トン!食品ロス大国ニッポン

飲食業界の皆様もきっと一度は、食品を廃棄することに罪悪感を覚えたことがあるだろう。でも利益を生むための業界慣習が染みついてしまうと、その思いは次第に薄くなっていく。本書は「賞味期限」がもたらす思考停止に警鐘を鳴らし、この問題の重要性と構造を解き、行動変容を促すものだ。あの罪悪感といまも葛藤されている方は、ぜひ読んでみてほしい。

本書に掲げられている食品ロスの実績は2013年度の数字で、全国で年間632万トン。これは東京都民が1年間に食べている量とほぼ同等。地球上で支援されている食料の約2倍に当たるという。食糧不足の人や地域に提供される倍の食品を、日本一国で捨てている計算になるのである。この矛盾を、我々は放置しておいて良いのだろうか。

消費者や小売も加担。廃棄の実態

本書はこのように食品ロスの規模や喫緊性を伝えたうえで、この問題の構造を分析する。個々の事例を紹介しながらの積み上げ式なので「ここはこう改善されれば良いな」「ここは本来こうあるべきだな」と読者自身の頭でイメージできるように書かれている。報道ではメーカーが槍玉にあげられることが多いが、じつは我々一人一人の意識の問題だと気づかされる。

例えば「日付後退品」問題。前日に納品した商品よりも賞味期限が1日でも古いとスーパーは納品を拒否する。比較的消費期限が長い商品(例えばペットボトルなど)は消費者レベルではさほど気にならないが、ビジネスレベルではそうはいかないようだ。そのため、近年は年月日ではなく年月表示に切り替える動きが広がっているという。

大切なのは、一人一人の行動変容

自己を顧みると、ペットボトルの日付は気にしてないが、いわれてみれば牛乳は必ずチェックしている。そして、目についた牛乳のなかで最も新しいものを手に取るようにしている。皆さまはどうだろうか。このような消費者行動があるから、小売りは敏感になり、日付後退品を仕入れないルールになるのである。

そして、日付が古くなった牛乳は売れ残りやすくなり、廃棄に近づく。食品ロスを減らす消費者マナーとしては「すぐ消費するのであれば、棚の手前にある古いものを買う」というのが正解だ。学校などでは食べ方のマナーは教えるのに買い方のマナーは教えない、と著者は嘆いている。大切なのは一人一人の意識と行動の変容なのだ。

2030年までに食糧廃棄量は半減可能

持続可能な社会が本気で叫ばれ、新しい行動様式に移ろうとしている。我々は将来世代に対し責任ある行動を心掛け、コロナのような感染症への警戒を解かない社会を作る必要がある。そのためには、拡大ではなく無駄のない経済が求められる。いかに儲けるかではなく、限られた資源をいかに有効に使うかが、人類全体の関心事となるだろう。

本書では、フードドライブなど世界各国の様々な取り組みを紹介し、持続可能な開発サミットが掲げた目標「2030年までに食糧廃棄量半減」は“現実的で具体的”だと書いている。そしてまずは「消費期限が近づいている食べ物を買う」ことを行動に移してほしい、という言葉で締めている。今やらなければ、変わる機会を逃してしまいそうだ。一人一人が自分事として取り組み必要がある。

賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか
井出 留美 著


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