3年ぶりに来日のアラン・デュカスら日仏6名のパネリストによるグローバル美食パネルトークショー 〜未来の料理を考える〜

3年ぶりに来日のアラン・デュカスら日仏6名のパネリストによるグローバル美食パネルトークショー 〜未来の料理を考える〜

9月21日(水)パーク ハイアット 東京(東京・西新宿)にて、「ダイナースクラブ フランス レストランウィーク2022」の一環として、日仏の食に関わる6名のパネリストが登場しトークショーを開催。フランスレストランウィーク発起人であるアラン・デュカス氏も2019年から3年ぶりに来日し、登壇した。

9月21日(水)パーク ハイアット 東京(東京・西新宿)にて、「ダイナースクラブ フランス レストランウィーク2022」の一環として、2019年以来3年ぶりに来日したアラン・デュカスら日仏の食に関わるパネリストが登場しトークショーが開催された。タイトルは「グローバル美食パネルトークショー 〜未来の料理を考える〜」。

①ご自身の携わる環境における「サステナビリティ」について、日々の生活の中でどのように取り入れて(改善、発展、向上して)いけるか。
②フランス料理の未来はどのように進んでゆくのか。越えるべき困難や課題は何?
③レストラン/飲食/食生産の業界で働く楽しさや魅力について。

という3つのテーマについて、各パネリストがそれぞれの意見を述べた。

ダイナースクラブ フランス レストランウィーク2022年フォーカスシェフ「シュヴァル・ドゥ・ヒョータン」川副藍シェフ(ダイナースクラブ フランス レストランウィーク2022には姉妹店の「ブラッスリーレトン」として参加)
ダイナースクラブ フランス レストランウィーク2022年フォーカスシェフ「シュヴァル・ドゥ・ヒョータン」川副藍シェフ(ダイナースクラブ フランス レストランウィーク2022には姉妹店の「ブラッスリーレトン」として参加)

ダイナースクラブ フランス レストランウィーク2022年フォーカスシェフの1人である「シュヴァル・ドゥ・ヒョータン」の川副藍シェフはいすみ市で生まれ育ち、いすみ市の食材と七十二候の2つをテーマに料理を作っているが、それは自身が一番知っている風土と生産者がいるからだと語る。そしてサステナブルというキーワードについては、「まずはシンプルに近くにあるものを食べる」ことが、わかりやすくて誰でもできることだと述べた。
店で使っているいすみ市の食材は、循環型の酪農を行っている牛かうVacaの乳製品をはじめ、魚や伊勢海老にくっついて水揚げされる海藻を肥料にしたり、竹林を炭にして畑にまいたりで、化学肥料を使わずに循環の中でできた野菜などだ。何がどういう風土の中でできたのかを知っていて、それを伝えることが自身の役割であり、そうして提供される料理こそがこれからの外食の贅沢になるのではないか、と語ってくれた。そしてフランス料理の技術というものは、そのための手段として位置づけている。
一方でその手段は、合理性とは相反する職人の仕事であり、修行という名目での長時間労働は社会的にも課題となっている。それについては、それだけの技術を身につけるにはある程度の修業は必然であり、永遠の課題である、というのが現場のシェフである彼女のスタンスだ。仕事なのか修練の時間なのかは本人次第。その中で、料理人ってカッコいいなと思ってもらえる姿を見せていきたいと語ってくれた。

サステナブルな独自の酪農(らくのう)システムで高秀牧場を運営する株式会社牛かうVaca 代表取締役 馬上温香氏
サステナブルな独自の酪農(らくのう)システムで高秀牧場を運営する株式会社牛かうVaca 代表取締役 馬上温香氏
七賢 山梨銘醸株式会社 代表取締役社長 北原対馬氏 
七賢 山梨銘醸株式会社 代表取締役社長 北原対馬氏 

七賢を醸す山梨銘醸株式会社の代表取締役社長、北原対馬氏と株式会社牛かうVaca 代表取締役の馬上温香氏の2人は生産者の立場からそれぞれの取組や未来への展望を語ってくれた。
まず馬上氏は、人が生きるために必要なのは食料とエネルギーだが、どちらも自分たちで生産できていない、自給率が低い、ということを課題に感じているという。その中で自身の牧場では、とうもろこしや牧草の他、近隣の稲作農家と協力して稲わらをもらうなど、国産の飼料をメインにした餌で乳牛を飼育している。そしてチーズやジェラートなどの乳製品を価格競争せずに適正な価格で販売していることを紹介してくれた。
また、自身の仕事についても、牛が好きで好きな職業であり、良いことばかりではないけれど命を育てる現場としてやりがい、人の命を支えることへの誇りがあると話す。牧場では酪農体験教室、食育講座のほか、牧場に泊まって同じような生活をして、本当に酪農を職業にできるかを肌で感じてもらうための、本気の体験の場も設けており、牛のことや酪農のことを、より広く、より深く知ってもらいたいと取り組んでいるとのことだ。

そして北原氏は、酒造りの残渣としての酒粕が産業廃棄物にもなっている現状を教えてくれた。山梨で酒米を作っているお米農家は牛を飼っている兼業農家が多く、そこに酒粕を持って行って餌にするという取組を行っている。そして、農家では稲わらも同じく牛の餌にし、逆に牛の糞尿を稲作の堆肥にしており、そうしてできたお米で日本酒を作り、そこで出てしまう酒粕をまた牛の餌にするという循環を地域で作ることを目指している。
また、アラン・デュカス氏からの「日本らしくもあり世界の美食家がうなずく酒」というリクエストで、一緒にスパークリング日本酒を作ったが、それも「人のやっていないこと、新しいことをやるのが目的ではない」という。自身にとっての「サステナブル」は次の世代に引き渡すことであり、5年10年の話ではない。次の世代がより安定して地域に貢献できる酒蔵になるために、新たなお客様として海外の需要にも応えられるように取り組んでいる中にこのスパークリング日本酒も位置づけられる。実際にパリの料理人たちも若いうちから日本酒を飲んだことのある世代が増えており、日本の食材を料理に取り入れるのと同じ文脈で日本酒がペアリングの選択肢に入ることも珍しくなくなってきた。同時に日本酒の造り手も世代交代が進み、蔵元たちも自然とワインを飲むようになっている。今後はこうしたボーダーレス化が一層進み、日本酒に日本料理というだけでなく、各国の様々なジャンルの料理と合わせる時代がやってくると展望を述べた。

3年ぶりに来日のアラン・デュカスら日仏6名のパネリストによるグローバル美食パネルトークショー 〜未来の料理を考える〜

海外のホテルやレストランのトレンドに精通する株式会社オータパブリケイションズ 代表取締役社長、太田進氏は、世界のホテル業界の中で最も注目を集めSDGsを主眼においているホテル、シックスセンスの事例を紹介してくれた。また、レストランで働くことの魅力や課題については、最初の数年はどの業界も修行であり、あるポイントを過ぎるとやって良かったと思えるけれどそこまでが大変で、そこに行くまでのメンターがいるかどうか、出会えるかどうかがポイントと語る。あるピザのコンテストではトップ5うち2人が修業先はYouTubeと答えたという例も紹介してくれた。時代の流れとしては確かにそうなっておりヒューマンを感じないものも出て来るが、どっちを選ぶかは個人の裁量であり、選択肢は確実に広がっているといえる。

フランスレストランウィーク発起人でもあるアラン・デュカス氏
フランスレストランウィーク発起人でもあるアラン・デュカス氏

そしてアラン・デュカス氏は自身のサステナブルの原点は12歳のころ祖母が朝11時半に必ずキッチンで「今日は何を食べようかな?」と言っていたことだというエピソードを披露してくれた。この言葉はもちろん「ここにある食材で何を作ろうかな?」という意味だ。当時はフランスの地方にはヨーロッパからの食材が集まるような時代ではなく、畑からとれる野菜が主食であり、唯一の贅沢は冬に仕込む豚のベーコンだったという。
そこから50年経って、デュカス氏は去年パリ10区に食堂「サピド」をオープンさせた。健康的な食材にこだわり、95%は野菜、残りの5%はサステナブルに配慮されて漁獲された魚の出汁やソースで、肉を食べてはいけないとは言わないけれど、「地球のことを考えながらどう適応するか」をテーマに、野菜中心の料理でどんな値段でもお店ができることを証明しようとチャレンジしている。さらにこの食堂ではペルー人の女性をシェフに起用していることや、皿の中だけでなく皿そのものがリサイクルされたものを使うなど、そのチャレンジには終わりがない。
また、レストラン、食の業界で働くことの課題についても、レストランよりもっと大変な業界はあり、それこそ料理人はお店を閉めて休みを取ることもできるが、生き物を相手にする生産者はそうもいかないからこそ、彼らへの敬意や感謝を忘れてはならないという。また、料理は人間教育であると信じている、とも言い、マニラで行った料理学校の15人の生徒は親がいなかったりきちんとした教育を受けられていなかったりというストリートキッズたちばかりだったが、その中から2人がシェフとなりデュカス氏の店で働いているという。彼らは家庭を持ち、子供も生まれ、幸せな人生を歩んでいるが、それもシェフという仕事があったからこそだ。
最後にデュカス氏は、「人間は、誤った道に進んでも修正ができる。今まさに私達は道を立て直しているところでしょう。」と話してこのトークショーを締めた。

3年ぶりに来日のアラン・デュカスら日仏6名のパネリストによるグローバル美食パネルトークショー 〜未来の料理を考える〜

text:小林 乙彦(料理王国編集部)

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