食の未来が見えるウェブマガジン「料理王国」

畜肉か”Plant Based Meat”か。遅れてきた肉食国、日本の選択は?


畜肉か“Plant Based Meat”か――。
遅れてきた肉食国、日本の選択は?

牛肉食について欧米人は常に先行者で、日本人はその後ろをついて行った。7世紀から19世紀まで(表向き)肉食禁止だった日本人はこの新しい”肉”を受けれ入れることができるのだろうか

「畜産を撲滅する」という米Impossible FoodsのCEOパトリック・ ブラウン氏の弁は、たとえ煽り文句だとしても物騒だ。確かに未来を楽観視できないのも、時間がないのも本当のことだろう。だけど、”Impossible Foods”を名乗る企業のトップに、デカイ主語で「みんな、方法はひとつしかないんだよ」と語りかけられると、モヤッとしてしまう。牛は特にそのゲップの環境負荷が大きいというが、負荷を軽減する複数の研究も進んでいる。約50%の温室効果ガスの排出削減につながった研究もある。両者が”共存”前提なら理解できるが、「撲滅」となると、炎上マーケティングっぽくてちょっと苦手だ。「人にとって、食べることの意味とは」という考察や「世界の各地域で培われてきた食文化」に敬意を払った議論なしに「撲滅だー!」と言われても……。

菜食主義者で生化学博士&医学博士のCEOが植物原料で肉を”再現”したという話を聞いて、先日現行品のImpossibleを食べてきた。一口目に感じた味や食感は、それなりに牛のハンバーグに近かった。解凍でドリップが失われたUSビーフに、スパイスや調味を施したような味だった。牛っぽい味もするし、テクスチャーも一応ある。だが噛み込んでいって、スパイスや調味の風味が消えるとお約束の大豆臭がやってくる。実はその瞬間、安堵していた。最初に感じた「似せた味」に「不気味の谷」※1にも似た違和感があったからだ。 翌週、東北地方の中山間地域で放牧酪農の経産ホルスタインの肉を食べる機会に恵まれた。通常”廃用”となる、私たちの口には入らない牛肉には、楚々とした味の深みと透明感があった。放牧で培われたヘム※2に噛むほどに伸びやかなコクがあった。両者の間には深い溝がある。いま、私たちが食べているのは物語、頂いているのは生命である。Impossibleは、きっと物語を獲得するだろう。あとは、生命の鮮烈な味を獲得できるかどうか、である。

※1…ロボットや3DCGのキャラクターを人間の容姿に近づけたとき、ある一定の度合いに到達すると嫌悪感を感じる現象。※2… Impossibleが「味の決め手」としている成分。運動量が多い肉の赤色が強いのは組織内にこの成分が豊富に含まれているため。Impossibleは大豆から抽出したヘムを遺伝子工学を使って体積を増やして使用。

文・ 松浦達也(まつうら・たつや)東京都武蔵野市生まれ。「調理の仕組みと科学」などをテーマに広く執筆・編集業務に携わる。著書に『大人の肉ドリル』など。 この10月は東北・北海道など10以上の牧場をめぐり、品種や個体、部位ほか、肉の保管環境などでも感じられる味の違いを再学習。今号では、冒頭三賢人のインタビューから各論の執筆まで奔走。

text 松浦達也  Photo 松浦達也、外村仁

本記事は雑誌料理王国2020年12月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年12月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


SNSでフォローする