2023年6月5日
日本文学研究者で食通として知られるロバート キャンベルさんが、心に残るとっておきのレストランを紹介する本連載。2回目は、銀座にある日本料理店「銀座ふじやま」をご紹介する。店主の藤山貴朗さんは京都「和久傳」の出身で、総料理長として長年グループをまとめ上げ、3年前に独立。食材への〝藤山流〞のアプローチはもちろん、しつらいから接客の間合いまで、店主の美学がいたるところに現れている。
エレベーターで雑居ビルの7階まで昇り、ドアが開くと、数寄屋造りの空間が現れる。洗練された中に野趣を生かしたしつらいには、店主の美意識が映し出されている。藤山さんの技を間近に体感できるカウンターのほか、個室(2部屋で各4席)もある。
銀座ふじやまのことをはじめて聞いたのは数か月前、京都祇園町にある行きつけの割烹料理店の店主が耳打ちしてくれた時であった。和久傳で長く総料理長をやっていた藤山さんという方が一昨年、京都を切り上げ銀座で店開きをしているという。店主いわく、自分が京野菜を仕入れている京都でも古株の生産者と藤山さんとは旧知の仲で、どんな料理を作っておられるか、そこが今一番興味があるので近々食べに行きたい、と熱く語っていたのを思い出す。
信頼がおける料理店主が奨める他店は往々にしてどこか光っているところがあり、今回も見事に当たったのである。予約した夜は雨がしとしと銀座レンガ通りの路面に落ちていて、隣のホテルから零こぼれる灯りが水溜まりに暗く反射していた。道を行き交うコンビニ傘を避けてエレベーターに乗り、上階まで上ると景色は一変する。光を吸い込むような灰褐色の土壁とせせらぎの流れを小気味よく刻んだような浮うづく造りの一枚板の長いカウンターがわたくしたちを待っていた。