ジラルデ氏から受継いだスペシャリテ「鴨のコンフィ」


ジラルデ氏から北村シェフへ、さらに引き継がれていく系譜

丸くて優しいソースは、ジラルデ氏の人柄とも重なるという。「ジラルデさんの家族の食事を作っていたので、ジラルデさんのおばあさんにも、まさに家族ぐるみでよくしていただいていて、私にとってジラルデさんはスイスの父のような存在です。私は小学校3年の時に父が亡くなって、それ以来、日本で父親代わりで世話をしてくれた方がいるのですが、修業中にその方が危篤になって。ジラルデさんに話すと、すぐに飛行機のチケットを取ってくれました。『すぐに日本に帰れ、部屋は空けておくから、過ごしたいだけ日本にいて、いつでも帰って来い』と」。そんな温かい人柄は、自身の手本にもなっているという。

ジラルデ氏と渡仏時代の北村さん。
ジラルデ氏と
提供:Grand Table Kitamura

そんな北村シェフを慕い、巨匠たちのシグネチャー料理や、その系譜を引き継いだ北村シェフのクリエイションから学びたいと訪れる、シェフや飲食関係のプロがひきもきらない。筆者の友人も、つい先日「ジラルデのシグネチャーコース」を事前に予約し、感銘を受けて帰ってきた。

フランス料理の根幹はソースと火入れ、と語る北村シェフ。肉や魚など、料理の火入れは基本的にガス下オーブンを使う。

「この料理はロティブレゼですが、低温調理が主流の今は、ブレゼという言葉を知らない料理人も多いのではないかと思います。こういった『ちゃんと火を使う』調理法は残していきたいですし、きっとまたこういう料理に、時代が戻ってくるのではないかと思います」

ヨーロッパ修行時代の北村竜二シェフ、巨匠たちとのエピソード

北村竜二シェフ

1964年生まれ、岐阜県出身。16歳で料理の世界に入り、17歳の時に、研修旅行で訪れたヨーロッパの三つ星レストランでの食事、マルシェでの野菜のおいしさにも感動し「次は仕事でここに戻ってくる」と決意。語学学校に通うなどしてしっかりと準備し、22歳、1986年に渡仏。名店「シャルル・バリエ」を皮切りに、ヨーロッパ各地の三つ星で13年に渡る修業を重ねた。

シャルル・バリエから、ロブション氏の店「ジャマン」に移るが、週末には、トゥールのシャルル・バリエに戻って手伝いをし、バリエ氏がロブションさんに、とお土産に作ったブーダンやベーコン、カンパーニュをパリに持って帰るなど、二人の巨匠をつなぐ架け橋としても働いた。

ジャマンの後は、綺麗なジビエのソースを学びたいと、タイユバンへ。「1987年当時は、ソースがどんどん軽くなっていた時代。そんな中でも、タイユバンではブールマニエをまだ使っていて、ジビエ のソースは豚の血でリエするなど、古典的な手法を学んだ。それぞれのフォンをきちんと取る、丁寧な仕事、ソースにどんなアルコールを使うかなどもつぶさに学んできました」。

その後、ジラルデへ。フレディ・ジラルデ氏には、スーシェフとして仕事面で厚い信頼を受けただけでなく、その人柄から、まさに愛弟子として可愛がられた。

グランターブルキタムラ
名古屋市東区主税町4-84
TEL 052-933-3900
営業時間
11:30-15:00(LO 13:30)
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定休日 不定休
https://french-kitamura.jp/

2022年3月24日
text・photo:仲山今日子

ワールド・レストラン・アワーズ審査員。元テレビ山梨、テレビ神奈川ニュースキャスター。シンガポール在住時、国営ラジオ局でDJとして勤務。世界約50ヶ国を訪ね、取材した飲食店や食文化について日本・シンガポール・イタリアなどの新聞・雑誌に執筆中。


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