食の未来が見えるウェブマガジン「料理王国」

鳥羽周作さんが考えるストレスのない料理とは?


ストレスのない料理を目指すことで自然と日本の原点に向き合うように

鳥羽周作さん

乳製品などの代わりに料理を支えるのは日本の食材

「私が考えていることはシンプルです。食べるというのは毎日のこと。だからストレスがないのが一番なんです」

そう話す鳥羽周作さん。「日本の食は、原点に帰れば日本人にとって理にかなった体によいものが多かったはず。日本に昔からある料理を取り入れると、フランス料理でも自然と軽くなりストレスがなくなっていくんです」と鳥羽さん。もともと体に優しく感じる料理が好きだったこともあり、日本料理のお吸い物のようにすっと体に入って、いつまでも食べていたいと思えるような料理が理想だという。9皿のめくるめくストーリーが、終わってみれば体に優しかった。そんな流れを目指すために、自然と乳製品を使う皿数が減っていき、油を使う調理も少なくなっていった。

代わりに使うのが、日本の食材や調味料。米酢、梅干し、酒粕、日本酒……リゾットに芋焼酎を使うこともある。料理の旨味を決めるだしも、牛や鶏などはあまり使わず、ハマグリなどの貝や乾物をおもに使っている。醤油(塩味)と味噌(甘味)の両方のニュアンスを持つ植物性発酵食品である醤(ひしお)や、さまざまな味噌も活用。とろろ丼や鯖寿司などをモチーフにした料理では、炭水化物として大麦などのリゾットも添えている。日本人が古くから親しんできた食材を使うことで安心感や満足感を演出するとともに、乳製品や油を抑える物足りなさをカバーしている。

健康とおいしさのバランスを考え理想の形を実現していく

「レストランは食事を楽しむところ。ですから、ストイックにはなりすぎたくないと思っています。ただ、料理を軽く仕上げながらおいしさを保つ工夫をしていくなかで、自然と日本の食材が増えてきていますね」と語る鳥羽さん。ストレスのない料理を目指しながらも、乳製品や油をまったく使わないということもないという。使う時には使い、それ以外ではぐっと抑える。そうすることで、違うアプローチでおいしさを表現し、コースの流れにメリハリをつけることができる。健康ばかりを意識しすぎることなくおいしさを追求しながら、最終的に負担のない食事に。そのバランス感覚が大事だと考えている。

ストレスとおいしさとのせめぎ合いのなかで、今はごく自然にバランスが取れているという鳥羽さん。ひとつひとつの食材にじっくりと向き合えば、必要以上のことはしなくなるという。素材のよさを見極めて必要な部分だけを引き出せば、雑味のないきれいな料理、ストレスなくおいしい料理を生み出せる。さらに、酸味や甘味のニュアンスで輪郭をつけていくため、旨味もそれほど強い必要はなく、優しい味わいの料理に仕上がる。鳥羽さんの追い求める料理は日々研ぎ澄まれ、その味を求めて、多くのお客さまが何度も「グリ」へ足を運んでいるのだ。

今回のテーマである「大豆」も、栄養価が高いうえに脂質は少なく、日本で古くから親しまれてきた食材。大豆から生まれた食品もたくさんある。鳥羽さんはこの大豆の魅力を深く見直し、ひと皿を作り上げた。乳製品を一切使用しない軽やかな味わいながら、大豆ならではの旨味と、さまざまな表情が引き出されている。

お客さまにとってストレスのない、食べていて心地よい料理を目指す鳥羽さん。その結果、日本で古くから使われている食材などを自然に活用し、脂質が少なくてもおいしく食べられる方法などを工夫している。

大豆を変化させた3つの副菜を相性のよい鳩に合わせる

鳥羽さんの「大豆」のひと皿は、鳩を使ったメイン料理。鳩以外の副菜は、すべて大豆で構成するレシピを考案した。大豆というひとつの食材から生まれた、大豆の新芽である「大豆もやし」、大豆を絞った「豆乳」、豆乳を絞ったあとの「おから」の3つのアプローチで副菜を構成し、大豆を発酵させた「醤(ひしお)」のソースで全体をまとめる。大豆に合わせる鳩は豆を食べて育つため、もともと味わいの相性もよい。巣に籠もる鳩をイメージしたこの料理の中に、鳥羽さんが捉えた大豆のすべての魅力が込められている。

第一の副菜である大豆もやしはそのまま何も加えず乾燥させる。第二の副菜は大豆の一品種である黒豆と大麦のリゾットに軽くコンフィした鳩のレバーとハツを細かくたたいて加え、最後に豆乳でつなぐ。第三の副菜はおからをオリーブオイルでつないでオーブンで焼きチュイルに。それらとグリルした鳩を結ぶソースにも乳製品を一切使わず、醤を使用。さらに、大豆を挽いたきな粉もこの皿に加わる。

変化を持たせつつストレス減軽さ重視の現代レストラン料理

味わいを凝縮した乾燥野菜は脂質が少なくても甘味と旨味が感じられるため、動物性の出汁の代わりに干しシイタケやドライトマトなどを普段から愛用している。大豆もやしも乾燥させることで味わいと香りが増し、料理に深みを与えている。リゾットに使う豆乳も脂質が少なく独特の風味があるが、鳩の内臓を細かく刻んで加えることで、豆乳の個性を活かしつつ旨味を持たせた。おからはオーブンで油を使わずに焼いてチュイルにすることで、軽やかな香ばしさが生まれる。

日本で長く親しまれてきた大豆を見つめ直し、フランス料理に応用した今回のひと皿。まずきな粉の香りが広がり、軽やかなチュイル、しっとりと旨味のあるリゾットとともに鳩の味わいを醤のソースが受け止め、大豆もやしの余韻が最後まで続く。「今回の料理のような味の展開力はつねに大事にしています。皿の上に盛る少ない量の料理の中にも、いかに物語を生み味の変化を持たせるか。ひとつの食材を多角的に捉えてさまざまな表情を出しながら、体に負担やストレスを与えない料理に仕上げる。それが現代のレストランにできる仕事のひとつだと考えています」

ひとつの食材を多角的に捉え味の展開と物語のあるひと皿を生み出す

鳩 豆 豆
鳩に添える副菜のすべてを、大豆もやし、黒豆、豆乳、おから、醤(ひしお)、きな粉という、大豆から生まれた6種の食材で構成。乳製品を一切使用せず仕上げている。

POINT

脂質の少なさをジビエの旨味でカバー。大豆から生まれたさまざまな食品を活用し深みを出す

大豆の一品種である黒豆と大麦のリゾットに、軽くコンフィした鳩の内臓を細かくたたいて合わせ、「豆乳」でつないで仕上げる。

大豆に合わせるのは「鳩」。豆を食べる鳩は、料理でも大豆との相性がいい。繊細な肉質と味わいで、大豆のさまざまな表情を際立たせる。

大豆を発酵させて作る「醤(ひしお)」を使ったソース。甘みも感じられるしっかりとした味わいが、ジビエにバランスよく寄り添う。

Shusaku Toba
サッカー選手や小学校教師を経て、32歳で東京・神楽坂のイタリア料理店「ディリット」の門を叩きレストランの世界に。その後東京・青山のフランス料理店「フロリレージュ」などを経て、2016年春、38歳で「グリ」のシェフに就任。2018年7月より【sio】としてリニューアルオープン。

河﨑志乃=取材、文 土岐節子=撮影

本記事は雑誌料理王国2017年10月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2017年10月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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