World News NY:インフレ下を生き抜くレストラン業界の動向


多文化が共生するアメリカの大都市ニューヨーク。常に世界の最先端を行くこの街で活動する、ライター&プロデューサーの小松優美さんが、美食の最新情報をレポートする。今回は、歯止めがきかないインフレ下のレストラン業界について。

今年5月の消費者物価指数が前年比8.6%(食品は10%)上昇という記録的インフレが続いているアメリカ。ガス代や賃料の高騰、最低賃金の上昇も相まって、飲食業界全体で値上げが避けられない状況だ。

すでにニューヨーク随一の高級寿司店「MASA」では、カウンター席のコースが$150アップして、$950に。ミシュラン星つきの「Sushi Noz」では、お任せが$400から$495に変更され、$230で提供されていたカジュアルなコースは廃止。「Eleven Madison Park」はサービス料込みから、チップ制に変更となり、$335のコースに対して実質支払う金額は$100近く上がる計算となっている。

その一方で、低価格を打ち出した店もある。「Skirt Steak」は、ステーキレストラン「BLT」の創始者ローラン・トゥーロンデルによる新業態の店。メニューは、スカートステーキにサラダ、食べ放題のフレンチフライがついたプリフィックスのみで、値段は$28。メニューを単純化することで、調理もオペレーションも効率化でき、仕入れ価格も抑えられたのだろう。

$28で供されるプリフィックスは、テーブルを回って追加されるフレンチフライが若者に受けている。ワゴンでサーブするデザートも$10と手頃だ。
©Skirt Steak

スカートステーキは経済的と呼ばれる部位だが、マリネで柔らかくした肉には赤身の野性的アロマもあり、味わい深い。破格の店としてTikTokで拡散されたことから人気が爆発し、開店前から40人以上が並ぶという。ファン層が若いとはいえ、批評家からの評判も悪くない。また、あえて剥き出しの木材で簡素に作った低コストの内装を山小屋のような雰囲気に仕立てる技も見事だ。

家賃の中央値が50万円という“住みにくい街”でインフレが長期化するとなれば、こうした庶民的な店は今後も増えていきそうだ。

text:小松 優美

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