「ホテル ニューオータニ」で毎回好評の企画、世界で活躍する日本人シェフフェア「THE GASTRONOMY」。2018年に行われた第5弾では、パリを拠点に活躍する若手シェフ3名守江慶智さん、北村啓太さん、渥美創太さんによるコラボレーションが実現した。イベントにかける思いからパリでの近況に至るまで、三者三様の思いを尋ねた。今回は、北村啓太さんインタビューをご紹介します。
「ふたりとも発想が飛び抜けている天才肌の料理人。だから今回は、僕がその間に入る接着剤的な役目なのかなと思っているんです」
そう語る北村啓太さんにとって、今回のイベントで一緒の守江慶智さんとは、19歳の頃に調理師学校のクラスメイトとして出会った旧知の仲。渥美創太さんとは5年ほど前から、パリを拠点とする料理人たちの集まりで顔を合わせるようになり、自然と親しくなったという。
「パリで日頃から交流のある3人でメインを張れるイベントに呼ばれるのは初めてのことで、すごく嬉しかったですね。なかなか癖のある、おもしろいメンツだと思いますよ」
北村さんは今回、現在シェフを務める「レストランエール」のスタッフ総勢6名と帰国。ビザを更新する人、本帰国する人などタイミングが重なり、3店の中では一番の大所帯。ほぼエキップでの参加となった。
「スタッフにはこのイベント自体を楽しんでもらおうと。今やっていることに価値を感じてほしかったし、僕の姿を見て、いつか自分もそうなりたいと思うきっかけになってくれたらいいですね。やはり誰もが経験できることではないと思うので」
昨年6月、それまでIZAKAYAがコンセプトだった「ラ・メゾン・デュ・サケ」が大幅リニューアルし、ガストロノミーを提供する「レストランエール」に生まれ変わるタイミングでシェフに就任した北村さん。
「それまで僕がシェフを務めていた『オーボンアクイユ』は、ビストロノミー的な位置づけの店。一度はガストロノミーの店でシェフを経験しておきたいと思っていたんです」
やはり、いずれは自分の店を持ちたいと考えている。
「今のパリで店をやるなら、カジュアルなラインでやったほうが経営は安定すると思います。ガストロノミーの店を長く続けるのは相当難しい。今は自分のやりたい形を探しながら、今後の展開を考える準備期間でもあると思っています」
そんな北村さんに、海外で活躍するための心構えを尋ねた。
「日々真面目に仕事をすること。それができていないと、もし海外でチャンスがやってきても、それをモノにすることはできないと思います。やはり覚悟を持って仕事をすることが大事だと思いますね。日々真面目に取り組んでいれば、ちゃんと見てくれている人はいると思うし、チャンスも必ずやってきます。自分はフランスに出てから、生きていくのが大変だと感じたことがありました。それでもこらえられるだけの忍耐力を培えるのが、日々の修行なんです。大変な状況になった時にちゃんと生きていける力を、今のうちに日本で蓄える。その上で海外へ出たほうがいいと思います。あるいは、本当に若いうちに出てしまって、向こうで耐え抜く。その2パターンだと思いますね。中途半端では続かない。そういう世界です」
パリ2区にある「レストラン エール」では、リニューアル後も引き続き日本酒を取り扱い、ワインと酒を組み合わせたペアリングを提案している。北村さんはここでオーナーシェフに近い裁量権を与えられ、自身の思い描く理想的な店づくりを進めている。
田中英代=取材、文 小寺 恵=撮影
本記事は雑誌料理王国第286号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第286号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。