食の未来が見えるウェブマガジン「料理王国」

日本人がまだ知らない”和食”の可能性①


小門亜裕子(こかどあゆこ)
都内私立一貫校 開成学園にて英語教員として教鞭をとる傍らBuddha Bellies Cooking Schoolを立ち上げる。都内を拠点に訪日外国人の和食料理教室を運営。外資系の食を通じたチームビルディングやGoogle USAやYahoo USAなど大手のIT企業のための和食体験研修などの依頼を受けるほか、海外のリゾートホテル、レストランからの日本食メニュー開発、研修、日本酒のコンサルティングなど多岐にわたる依頼も手がける。国内外での様々な活動を通し、和食を媒体にしたB to C及びB to Bのニーズを実感する。世界中が和食・日本食に注目していることを肌で感じた筆者ならではの視点で、「和食」=「日本がもつ資源」と捉え、その体験を綴ってゆく。著書「英語でレッスン!外国人に教える和食の基本」(IBCパブリッシング)

Buddha Bellies(ブッダベリーズ) という小さなクッキングスタジオを構えたのが十数年前。クッキングスクール自体は特に珍しいものではなく、巷には沢山の料理教室が既にたくさんあった。ただ、少し毛色が他のそれとは違うと思われた理由は、外国人に和食を教えることに特化した教室だったせいかもしれない。

当時は、まだ「インバウンド」や「観光立国日本」という言葉などは世の中に浸透していなかったし、訪日外国人もまだまだ夜明け前の数字で、コロナ直前まで急成長に伸び続けていた訪日客数など誰も予想はしていない時代だった。そんなわけで、周囲に「訪日外国人向けの和食料理教室をやる」と説明したとしても、「そんなニーズあるの?」であるとか「知らない外国人と密室でクッキングなんて怖くないの?」という島国らしいご心配まで頂いたのを記憶している。そもそもインバウンドアクティビティーという言葉を使い、こちらが意図していることを説明したところで、イマイチ相手に伝わっていない感覚が常につきまとっていた時代だ。

Buddha Bellies をスモールビジネスとして立ち上げてみたかったそもそもの理由は、自身の経験に基づいたものからだった。学生時代から旅先では必ず料理を習う機会を探した。それは料理教室という場所だけに限定されず、ときにミャンマーの造船職人の食堂の厨房で料理人から賄いスープを習ったり、或いは現地で知り合った友人のお母さんにお袋の味を伝授してもらったりと形にはこだわらずに様々だ。旅先で、食を通じて得た学びや現地の人たちとの交流は実に豊かな時間であり、どんなお土産や観光地よりも長く旅情の余韻をくれた。そして日本に戻り、家族や友人に学んだレシピをシェアする楽しさも同時に与えてくれた。日本にもこんな風に訪日外国人が食を通したエクスピリエンスをできる場があればいいのに、と思い始めたのが2009年頃だった。

立ち上げから細々と一年ほど続けていると、徐々に来てくれたゲストの口コミで問い合わせが来るようになってきた。また当時は日本では無名だった口コミ旅行サイトに欧米からのゲストのすすめで登録をすると、瞬く間に申し込みが増えていった。その頃は日本への観光はいまほど外国人フレンドリーな環境(wifiや標識も今ほど充実はしていなかった)ではなかったので、多くの訪日客はその口コミサイトでしっかりと下調べをして訪日するという話だった。彼らは一様に観光だけではない「日本でしか体験できない何か」を探していた。そして、世界の人々が日本食に対して抱く憧れや興味は我々日本人が認識している以上のものであるという事が教室運営をしてゆく中で知ることになった。

次回は、「外国人に和食を伝えるとは?」というトピックに焦点をあてお話してゆきたい。


SNSでフォローする