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【飲食店の法律相談所 #7】1週間でバックレ。さらに給料を請求してきた!


Q.1週間でバックレ。さらに給料を請求してきた!

オープンして2カ月のモダン・フランス料理店のオーナーシェフです。
オープニングスタッフとして募集して採用したスタッフのひとりが、入社後1週間で急に辞めると言って、突然来なくなりました。それだけではなく、1カ月分の給料を出せと要求しています。1週間分すら出したくないのに、拒否したところ「訴える」と言い出しました。どうやら飲食業の人材難をいいことに、入社してはすぐにやめて給料を請求する詐欺まがいの者のようです。どう対応したらよいでしょうか。
(40代 フランス料理店オーナーシェフ)

A.惜しい気持ちはわかりますが、1週間分の給料は支払ってください

人手不足の業界ですから、せっかく入ってくれた人材が、いきなり辞めてしまうのは、お店にとって本当に痛手です。あまりいい話ではありませんが、人手不足をいいことに、数カ月に一度就職先を転々とし、その度に手切れ金を受け取っているという話も聞いたことがあります。

法律で制限があるのは解雇のみ

一度、就職と退職について整理しておきましょう。

まず、法律上、色々な制限があるのは、「解雇」についてです。勝手に会社が従業員を解雇できないように、さまざまな法律があり、よほどのことをしないと、店側が解雇するのはなかなか難しいのが実情です。逆に、従業員が自ら辞める場合、基本的に従業員側に制限はなく、いつでも理由を問わず退職できます。ただ、法律上は、2週間前に通知することになっていますし、就業規則などで、「1カ月前に退職届を出す」と定めている所も少なくありません。

したがって、ある朝いきなり、「辞めます」といってお店に来なかったり、連絡せずに来なくなってしまう、いわゆる「バックレ」の場合に、店に損害が出れば、一定の損害賠償請求が可能です。

1カ月分の給料は支払い不要

まず本件でも、従業員側から退職を申し出ているのであれば、勝手に辞めればいいだけであって、雇用保険や離職票など、一般的な退職手続を除き、会社側が何かする義務はありません。

1カ月分の給与というのは、解雇予告手当のことかもしれません。しかし、解雇予告手当は、会社が「解雇」する際に必要なものですので、今回のような、従業員からの退職では支払う必要はありません。

店の損害額と相殺する方法も

気持ちとしては納得できないところですが、1週間働いたのであれば、その分は給与を払わざるを得ません。どうしても納得できなければ、1週間で辞めたことでお店に損害が出ていることを示し、その金額で相殺を提案してはいかがでしょうか。

また、給与の支払いについては、現実には銀行振込がほとんどですが、法律上は手渡しが原則です。「給与については手渡しするから取りに来てほしい」と連絡し、その際に損害賠償や引継ぎなどの話をするというのもひとつの方法です。

従業員側が「絶対に嫌だ」というのであれば、店側から無理やり相殺することはできませんが、1週間分と金額も少ないですから、相手も面倒ごとは嫌がって、そう強硬な主張はしない可能性もあります。

いずれにせよ、人手不足で怖いのは、安易に採用してしまうこと。目の前のことだけを考えて、あとでややこしいことにならないように、採用はできる限り厳格に行うことを意識してください。

飲食店専門弁護士 石﨑冬貴
1984年、東京都生まれ。神奈川県弁護士会会員。横浜パートナー法律事務所所属。飲食店法務を専門的に取り扱うほぼ唯一の弁護士。著書に『なぜ、飲食店は一年でつぶれるのか?』(旭屋出版、2018年)がある。

本記事は雑誌料理王国2019年4月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2019年4月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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