「月曜シェフ塾」は、フレンチやイタリアンを中心としたプロの若手料理人、ホテル勤務者などを対象にした、低価格で調理技法を学んで試食もできる料理講習会だ。講師は、業界を代表する高い見識と調理技術を有する一流シェフ。レストラン業界の休みが多い月曜日を基本に開催している。
2022年4月25日(月)に東京・渋谷の「ドーバー洋酒貿易株式会社 東京本社」のセミナールームで行われた「月曜シェフ塾」は、洋菓子技術講習会。講師は、東京・本郷の「パティスリー アヴランシュ・ゲネー」のオーナーパティシエ・上霜考二氏だ。同氏が繰り広げるノルマンディーの個性的な菓子づくりとその表現力は、パティシエはもちろんシェフたちの間でも注目の的。今回紹介する3つのフランス菓子は、店舗では販売していない、上霜氏の新しい発想から生み出された新作とあって、参加者たちの視線は熱い。この日の講習会は、進化したフランス菓子の奥深い魅力と上霜氏の斬新な感性をたっぷり体感できる貴重な機会となった。
「斬新かつ豊かなフランス菓子の素晴らしさをできるだけ吸収して帰っていただければと思います」という主催者の挨拶でスタートした「月曜シェフ塾」。今回のおもな食材は、フルーツ加工のスペシャリストとして知られるフランス「ラ・フルティエール社」の日本法人「株式会社ラ・フルティエール・ジャポン」と「タカナシ乳業株式会社」が提供している。
ひとつ目は、「プティット ネネットゥ」で、こちらはタイベリーのムースといったところ。「以前から、ラズベリーとブラックベリーの自然交配によって生まれたタイベリーが好きで、それをケーキにしてみようと思いました。味もさることながら、火を入れても色が変わらないのがいいですよね」と上霜氏。
とはいえ、アイディア豊富な上霜氏のこと。単なるタイベリーのムースでは終わらせない。タイベリーピューレをつかったムースのなかに、タイベリーピューレのジュリフィエや韃靼そば茶のクリーム、韃靼そば茶のクラックランなどを忍ばせて、味と食感に奥行きを与えた。
「『ラ・フルティエール社』の畑があるのはフランス・ブルターニュ。ブルターニュといえば、蕎麦粉のクレープですよね。それで、韃靼そば茶を合わせてみることにしました」と上霜氏は説明する。
また、「ケーキは水分量が多いほうが美味しいので、アンビバージュはたっぷり染み込ませます。飲み物がなくても美味しいケーキが僕は好きなので、食べ応えよりも水分量を考えてケーキをつくっています」と教えてくれた。
タイベリーの華やかな香りと韃靼そば茶の香ばしい風味がみごとなハーモニーを奏でる一品だ。
続いては「アン ノワイヨ」。これは、種がひとつのフルーツ、ライチと桃、グリオット(さくらんぼ)にアーモンドをプラスした色取りも美しいアントルメだ。「昔、『種がひとつのフルーツを合わせると、味が合うんだよ』と教えられて、わざと種がひとつのフルーツを集めて、ケーキをつくってみました」と話す上霜氏。実際にやってみると、ライチ、桃、グリオットのなかで、いちばん主張をしたのはライチだったそうだ。「普段、出そうと思っても香りが出ないライチが、他のフルーツと合わせることでここまで主張するとは……。難しいですね」と上霜氏は苦笑する。
最後は、「ケーク マングー」。簡単に言えば、マンゴーの風味を効かせたマドレーヌだ。一般的な“マドレーヌ”の材料に、マンゴーピューレとパッションフルーツピューレを加え、さらに生地の中央には、低温で約1時間焼いた冷凍マンゴーの小さな塊を数個配置。マンゴー感を高めると同時に、食感の変化も楽しめるようにした。「冷凍マンゴーは低温で焼くと味が濃くなるんです」と上霜氏。焼き上がった生地の表面に、マンゴーピューレなどでつくったシロップとアプリコットのコンフィチュールを全体に塗り、低温で焼いた冷凍マンゴーの小さな塊を飾り付けた。
「フランス料理のレストランのシェフをやっているのですが、デセールを考えるときに、もはや独学では難しいと思い、この講習会に参加させていただきました。香りの使い方や食材の加工の仕方などはすごく勉強になりしました」「ビストロでパティシエをやっていますが、味の構成や香りの伝わり方など、いろいろと勉強になりました。食べたときに、上霜さんがおっしゃっていた通りに風味が届いてきて、そこまで計算し尽くされているのかと感動しました。ケーキをお店で買うことはできますが、実際につくっているところを見て、シェフの考えていることを聞きながら食べることができる機会はなかなかないのでよかったです。」等々……。参加した人たちは、それぞれに何かしらのヒントを得た様子だった。
text:山内 章子
Sautoir Club/月曜シェフ塾