フードキュレーター大橋直誉の独立開業myルールvol.11 過去×過去=今 大橋流アイデアの生み出し方


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独立開業〜閉店の軌跡

クリエイティブでいるには?失敗することの大切さ

2016年に尾道で開催された期間限定の野外レストランプロジェクト「DININGOUT(ダイニングアウト)」は、とても大きな仕事のひとつでした。

通常はシェフが指揮を執ります。ですが、尾道の時はシェフではないボクに声がかかりました。「1ディナーにものすごい高額を出すお客さまを、いかに感動させるか」が課題です。

ボクが考え抜いて決めたテーマは、寿司・フランス料理・中国料理・お好み焼きなどジャンルの異なる名のシェフで、コースを完成させること。当日は、互いの技術が素晴らしい化学反応を起こし、とても刺激的でした。

アイデアは誰にでもあります。ただ、形にするにはリスクがあり、失敗すれば浪費に終わります。でも、失敗の連続が大切だと今は感じています。昨日よりいいものを作ろうと試みるのは、リスクである反面チャレンジでもある。毎日が同じでは惰性的になるし、クリエイティブでいるためには、刺激が必要だと思うからです。

情報にアンテナを張ることもクリエイティブを発揮するのに大切ですが、SNSの情報をもとには物事を考えないようにしていました。SNSはあくまで人をつなぐ手段にすぎませんから。ボクが毎日意識していたのは、同じ道は通らず、あちこち見ながら街のわずかな変化を見逃さないようにしていたことぐらいです。

ボクからすると、料理ができる人は、もうその時点でものすごくクリエイティブだと思います。

過去の企画が実を結ぶ

とことん調べまくって最高のアイデアを探る

「ティルプス」での「つかんと」というとんかつ企画は、まさにアイデアからスタートしました。

ボクの好きな思考法で「過去×過去」というのがあります。たとえば以前に器作りをした時、1500年頃と1600年頃に作られた器の、それぞれよいところを掛け合わせて新しい器を作りました。各時代の新しい試みを合わせて、着地点を「今」に持ってくるイメージです。

とんかつは、1800年代後半に戦争で料理人が徴兵され、人手不足から生まれたもの。当時日本に紹介された「カツレツ」が、「油で揚げて大量生産できる・前準備可能なキャベツの千切りを添える」とんかつの形となりました。さらに誕生から100年の間に、さまざまなスタイルが生まれ、カツ丼やカツカレーといった料理も出てきました。

「このふたつの“過去”を掛け合わせ、経験や機智、人手も最新機材もある現代のレストランで、“今”の形にしたらどうなるか?」というのが「つかんと」の出発点です。そこで、とんかつの有名店を食べ歩き、関連本を買いあさり、図書館で文献を調べまくりました。その中で、なくなった食べ方や食材の「豚」の進化など、アイデアの種がいくつも見つかりました。そうして運営の詳細を決め、チームと共有します。料理ができないボクは、あとは応援するだけ。

売上のことを考えたら、リスクは大。でも、発想を体験に変える現場に立ち会えるのは、飲食業の魅力のひとつだとボクは考えています。まして、自分の知的欲求を満たしながらお金をいただけるとは、なんて幸せなことなんだ、とレストラン経営から離れてみて改めて感じます。

こちらも「つかんと」のグランドメニューのカツ丼。ふんわりと軽い卵ソースのエスプーマとサクサクのカツのハーモニーが楽しい一品。

独立開業にまつわるQ&A

Q. 「リピーターを増やすにはどうしたらいいでしょうか?」

まずは自分がよく行く店を思い浮かべ、足しげく通う理由を考えてみてください。味なのか、値段なのか、店主の人柄なのか、居心地のよさなのか……。自分の店の強みが、お客さまに再訪してもらう決め手となるので、その強みにフォーカスすることが大事です。ボクの場合、「人」が要因になることが多く、おいしいお店は数あれど、「あの人に会いたい」という理由で足を運ぶことがよくあります。

大橋直誉
フードキュレーター&「ティルプス」オーナー

1983年北海道生まれ。調理師学校卒業後、東京の「レストランひらまつ」に入社。退社後は、フランス・ボルドー二ツ星 「コルディアン・バージュ」のソムリエに。帰国後、白金台の三ツ星レストラン「カンテサンス」で働いたのち、「ティルプス」を開業。世界最速でミシュラン一ツ星を獲得。 現在は、店舗にてサービスを務めながら、フードキュレーターとしても活躍する。

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本記事は雑誌料理王国298号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は298号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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