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【フレンチコラム】小さな三ツ星店「アストランス」誕生。そこから始まったさまざまな革命


2007 年は、私にとって記憶に残る年となった。「アントン・アレノ・アストランス」の3大「A」が三ツ星を取ったから覚えやすく、またパリで3軒も三ツ星を取ることはその年が最後だったからだ。

「 プレ・カトラン」のフレデリック・アントン氏はロブション氏の料理を忠実に伝え、自分のクリエーションへと進化させた。ヤニック・アレノ氏は洗練された都会的な料理で際立った。「アストランス」のパスカル・バルボ氏は、飾らない一見シンプルな料理を作り、食材革命の最先端を切った。ミシュランは「アストランス」に三ツ星を与えることによって、「自営の小さな店」が成功できることを証明したのだった。

バルボ氏は25 席ほどの店の厨房に毎日必ず立つ。食材重視の創作料理をリーズナブルな値段で提供するために、銀食器やバカラグラスなどのコストは省き、サービスも最低限の少人数でこなす。有名で高価なワインは少数に限り、むしろ小さな若い生産者の安いワインを探し出して客を驚かせる。不況に陥っていた世界はこの傾向を歓迎。その創作料理と経営の両面を学ぶために、各国から料理人が修業に訪れた。そこで学んだ弟子たちが、〝バルボ流〟を世界に広げた。


2011年、ゲランガムなどがまだ新しかった頃のリュバーブのプレ・デセール。今やバルボ氏はジュレやガム系は一切作らなくなった。

旅で得たインスピレーションを自在に料理に反映

素材の味をそのまま活かす」という日本料理の影響を受けたとはいえ、当時のフランス料理は、生魚を導入する程度に留まっていた。初めて京都まで行き、出汁や湯葉の作り方を学んで帰ったのはバルボ氏だった。シェフたちはバカンスには帰郷するか、フランス語圏のリゾート地に行く。自由に旅を楽しむようなことはあまりしないのに、バルボ氏はモロッコ、インド、タイ、中国、韓国、ブラジルなど、異文化に好奇心を抱き、旅をした。その好奇心を料理に反映させたのは「アストランス」が初めてだった。

黒トリュフ、パルミジャーノチーズ、ジャガイモを使ったいたってシンプルな料理は「アストランス」の冬のシグニチャになるほどの美味。

現在40 歳以下の料理人は、教育レベルを向上させ、多少なりとも英語が話せ、異文化に対する恐怖心もない。好奇心を持って世界を旅し、素直に料理に取り入れるようになった。さらに料理学校で教わる技法に固執することもない。若者は反抗しなきゃダメ! フランス料理伝統の煮詰めたソースにはなかなか勝てないが、真空調理、低温調理、生やマリネなど、新しい技法を尊重し、世界中の素材を積極的に自由に使うことは、美味くない結果をもたらすこともあるが、それでも人類の進化の一貫だと私は信じている。

Pascal Barbot

パスカル・バルボ氏の経営する「アストランス」は2007年にミシュラン三ツ星を獲得。日本の三ツ星店「カンテサンス」の岸田周三氏など、多くの才能を育んできた。

Astrance
アストランス

4 Rue Beethoven 75016 Paris
☎+33 (0)1 40 50 84 40
●コース 昼€70、夜€230
www.astrancerestaurant.com

本記事は雑誌料理王国277号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は277号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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