【後編】ジビエ入門は鹿や猪から。信頼できるハンターとの出会いも大切。依田英敏さん(ルセット)


独自に編み出した
便利な「赤外線ロースト」

もうひと皿は、「ベキャスの赤外線ロースト」。こちらは上級者向けの料理で、依田シェフのスペシャリテでもある。「ベキャスの肉は非常にデリケートなので、少しでも火を入れすぎるとパサついてしまいます。この加減を身に付けるには、やはりキャリアが必要ですね」

繊細な食材の旨味を活かすために考案したのが、「赤外線ロースト」。炭による火入れで、起こした炭を焼き網の下に並べていくのだが、この時、弱火から強火へ、火のグラデーションを作るように炭を並べる。炭火から放射される「遠赤外線」と「近赤外線」を利用して、じっくりと焼いていく。パサつきを防ぎたい部分は遠赤外線で、強火でこんがりと焼きたい部分には近赤外線を当てる。すべての部位を絶妙の焼き加減で、同時に仕上げることができる依田流ベキャスの調理法なのだ。

「ムネ肉はふんわり、モモはほどよい香ばしさに、くちばしや足はカリカリにしてお客さまに喜んでいただいています」

猪やクマのように脂の厚いジビエの場合は炭火に適さない。けれどベキャスにはこの赤外線ローストが最適で、コガモなどにも応用できる。「ベキャスがジビエの王様と呼ばれる理由は、ベキャスそのものが希少であることや、猟の難しさなどもあるのではないでしょうか」

ベキャスはジグザグに飛ぶので、生態を熟知したハンターでないとなかなか仕留められない。おまけに肉のほかにくちばしや脳みそも食べるので、首部分に的を絞って、ピンポイントで打つ必要がある。また、日本では猟が認められているが、フランスでは禁漁となっているため、フランスの料理人はスコットランドなどからの輸入食材に頼らざるを得ない。依田さんは、ジビエならではの、こんな話題でゲストとコミュニケーションを図ることもある。

火を通したベキャスにはスパイスをふり、赤ワインのソースを添えて提供する。クミンを中心に7種類以上を配合したスパイスは自家製で、シェフは個性的な香りのこのスパイスを、ライチョウやウサギにも使っている。

「ウサギを料理する場合、仕上げに強めのスパイスを使うと臭みを風味に変えることができます。また、加熱する前に、赤ワインやコニャック、ネズの実などで3日ほどマリネしておくのもひとつの方法です」。ただし、ジビエの場合は香りも旨味のうちなので消しすぎは禁物。少数派ながら、「腐る直前までフザンタージュ(熟成)してほしい」と言うゲストがいることも忘れてはならない。
 

依田シェフは、ジビエ初心者のゲストと、食べ慣れているゲスト、それぞれに合う料理を提供することを理想としている。簡単なことではないが、調理法だけでなくゲストへの対応の難しさもまた、シェフのチャレンジスピリットを掻き立てている理由なのだ。

上級テクニックを要するベキャス( 山シギ)の
火入れ・調理のポイント

炭火の遠赤外線と近赤外線を
上手に使い分けて焼く

くちばしや頭は中火~強火で
ふたつに割った脳は頭蓋骨を受け皿にして中火で焼く。脳みそを吸うようにして食べるのもゲストの楽しみ。肉の厚いモモや足の部分は最初から強めの火で焼く。

ジビエ好きの中には、くちばしをガリガリとかじる人もいるので、くちばしもよく焼いて提供するようにしている。

身は弱火でじわじわと加熱
今回使ったのはムネ肉。熱でじわじわと加熱して肉汁を閉じ込めるように焼く。炭火が直に肉に当たらないようにし、最後に皮目だけパリッと焼き上げる。

長年の経験からシェフが考案した赤外線効果を活用したロースト法。写真左から右へ、徐々に火が強くなるように炭を置く。

腸と肺はソースに
180℃のオーブンで5、6分焼いたベキャスの骨と一緒に赤ワインソースに入れる。沸騰させてしまうと内臓がはじけてなめらかなソースにならないので注意する。

赤ワインソースは、200ccの赤ワインを4分の1ぐらいになるまで煮詰め、そこに200ccのフォン・ド・ヴォーを入れ、半分ぐらいになるまで煮詰めてから、焼いた骨、腸、肺を加える。

心臓や砂肝などは別にローストして提供
ベキャスの内臓は小さいので、炭火では火が通りすぎてしまう。炭火の上の肉が焼きあがるのを見計らい、心臓や砂肝、肝臓などはフライパンで別に焼く。

火入れの難しいベキャスは指でふれて弾力を確かめながら
炭火の赤外線効果で焼くと失敗が少ない

ベキャスの赤外線ロースト
しっとり仕上がったムネ肉や香ばしいモモ肉に、野趣あふれる脳みそまで付いて、ジビエの旨さを満喫できる。泡立てた牛乳をのせて仕上げた赤ワインソースを付けていただく。

稲穂や藁、ベキャスの羽などを添えて賑やかに。加熱した心臓、砂肝、肝臓、ピエドムートンは串に刺し、立てて盛り付けた。

ジビエ調理のポイント

猪や山ウズラは中心まで火を入れるが
ハトや野ウサギは火の入れすぎに注意

鹿・猪・クマなど

猪やクマの脂は強めに焼いて中までしっかり火を入れる
ローストの場合、鹿肉は少し厚めに切ってミディアムレアに仕上げるのがおいしいが、猪やクマは肉の中心ぎりぎりまで火を入れて、表面の脂もカリカリに焼くのもポイント。依田シェフのレストランでは、ひとつの皿に猪のローストと、角切りにした猪のバラをブイヨンで煮込んだポトフを一緒に盛った料理が人気だ。

鹿肉には赤スグリやネズの実を使った甘酸っぱいソースがよく合う。また、野鳥の内臓やガラを入れたソースは低温で仕上げるのがコツ。

ウサギ

ネズの実などで臭みを緩和しゆっくり時間をかけて火を入れる
古典的フランス料理の最高峰「リエーブル・ア・ラ・ロワイヤル」は、ワインやコニャックに1日漬け込んだ野ウサギの肉に、野菜やキノコ、フォワグラなどを加えて丸1日煮込み、それをさらに1日ねかせて完成する。臭み消しとしては、松の実に似た香りでやや苦味があるネズの実が使われる。

ジビエの香りは大切だが、スパイスで香りを緩和する方法もある。依田シェフは、カルダモンやクミンなど、7、8種のスパイスを配合したミックススパイス
を作り置きしている。

野鳥(キジ・山ウズラなど)

中火でしっかり火を入れて旨みや甘みを引き出す
白身の野鳥の場合、その身が白ければ白いほど、中心まで火を入れる。そのほうが素材の甘みや旨味が引き出せるからだ。まず中火で焼き、あとは休ませて中心まで熱を浸透させる。フォワグラのほか、強い柑橘系の芳香のある香草ベルベーヌなどとの相性がよく、ソースは白ワイン、コニャック、フォン・ド・ヴォーを合わせて作る。

野鳥( ベキャス、ハト、コガモなど)

肉の中心はレア気味にして濃厚なソースと合わせる
「ジビエは火入れで決まる」と言われるが、その筆頭に挙げられるものに赤身の野鳥がある。時間をかけて中心部分がややレアに仕上がるようにローストするのがコツ。繊細な肉に合うのは濃厚でクラシックなソースで、赤ワインをベースにフォンや野菜、内臓などを加えたサルミソース等との相性がよい。

ベキャスのようにデリケートでパサつきやすい肉は、ノワゼット(ヘーゼル
ナッツ)オイルなどを馴染ませて火にかける。

”ジビエは個体差があるから面白いし、
調理のポイントを自分なりに導き出す
楽しさや発見もあります”

「オープン当初は、ジビエについて、お客さまにまったく理解してもらえなかった。今から思うとウソのようです」と、ベキャスの盛り付けをしながら語る依田シェフ。

ルセット
Recette
神戸市中央区山本通2-2-13
シルクハイツII B1F
☎078-221-0211
●11:30-14:00LO 18:00-21:00LO
●月休
●コース 昼3500円~、夜6500円~
●20席 http://recette.jp

本記事は雑誌料理王国258号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は258号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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