日本酒を提供しながら自然派ワインも扱う者、自然派ワインを提供しながら日本酒も扱う者。
この両者に共通する価値観を探ることで、日本酒と自然派ワインのミッシングリンクが見えてくるのではないだろうか。
渋谷「Umebachee」店主・梅澤豪さんと鎌倉「祖餐」店主・石井英史さんが語り合った。
梅澤:石井さんはワインの飲み頃や熟成をどのように考えていますか?
石井:感覚的なことですけど、抜栓したときの味わいの奥に、何かがありそうだなと気配を感じたら熟成させます。わりと僕は若いよりは枯れたほうが好きなので、出来れば置いておきたい派ですね。日本酒は抜栓してから2年くらいセラーに置いているものもあります。
梅澤:抜栓して一番古い日本酒だと、僕の店には平成24年に抜栓した23BYの「磐城壽 山廃本醸造」があります。0℃の冷蔵庫で熟成させていたんですけど、いまそれが美味しいんですよ。飲み頃ですね。抜栓して1 ~2年熟成させているものはざらで、お酒によってはマイナス5℃、 0℃、セラーを行ったり来たりさせています。日々お酒の味を見ながら、こいつはもう少しここに置いておいてあげようとか、やはり僕も感覚的にやっていますね。ただ、常温熟成はメイラード反応が進んで紹興酒みたいな香りになっていくので、僕はあまりいい熟成だとは思っていません。熟成香がいろんな要素をマスキングしてしまうので。常温熟成に関しては開かないお酒を開かせるための手段であって、基本的にはゆっくりとお酒を伸ばしていってあげる考え方ですね。伸びやかにお酒を開かせたいときは、13℃~15℃のセラーで熟成させることが多いです。熟成させる温度帯は、味見をしたときの香りと味わいで変えています。もちろん抜栓してすぐ飲める日本酒も好きですよ。液体としての完成度が高い状態で提供したいというのが基本的な考え方なので、熟成するかしないかはお酒次第ですね。必ず熟成しなければいけないという考え方ではありません。早飲みの日本酒も、抜栓したときにアルコールの角が立っていたり味のバランスが悪かったら、提供時期を少し待つこともします。もちろん蔵元さんは一番美味しいタイミングで出荷しているんですけど、厳密に言うと僕たちの手元に届くタイミングと出荷時とでは味が変わっているわけですよね。お客さんの口に入る直前で味が見られるのは飲食店です。お客さんが美味しいと感じてもらえるお酒を提供するために、抜栓して味を見て、それがいい状態なのか判断するのが僕の仕事。早く出せるお酒ばかりだったら、お店的にはありがたいんですけどね(笑)。
石井:そうですよね(笑)。味見をしないで提供していたら、こんな面倒なことは考えないですからね。でも、このお酒は少し待ってあげたほうが美味しいということを知ってしまった以上は、やらないわけにはいかないですから。